世界の有名大学の授業を視聴可能 編集の視点が新しい『Academic Earth』

マイスターです。

大学の授業を無償でwebに公開する取り組みが増えています。
このブログでも、これまで、いくつかをご紹介させていただきました。

(過去の関連記事)
■YouTubeが、大学関連の動画をまとめた「YouTube EDU」を公開
■大学の動画活用事例:慶應義塾大学の無料授業配信 iPhoneに対応
■動画投稿サイトで大学をPR(2):YouTubeで公式チャンネルを開設している海外の大学
■京都大学 YouTubeで講義を配信

さて、既にご存じの方も多いかと思いますが、少し前から話題になっているサイトをさらに一つ、お知らせしたいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「Academic Earthは教育界のHuluを目指す」(TechCrunch)

Richard Ludlowがイェール大学にて線形代数に苦しんでいたとき、インターネットを探し回ってMITの数学教授であるGilbert Strangのビデオ講座を見つけ出した。このときにLudlowは学術ビデオコースやゲスト講演などに簡単にアクセスできるオンラインプラットフォームを構築するアイデアを思いついた。テレビコンテンツについてHuluが行っていることの学術版と言えるかもしれない。以来調査を続けてみたところ、学術系のリソースはさまざまのサイトに散らばっていてファイル形式も不統一であり、見つけるのにも閲覧するのにも不便な様相を呈していることを理解した。
そのような調査結果を踏まえ、LudlowはAcademic Earthを構築した。サイトの目的は教育用ビデオの使いやすいプラットフォームを構築し、誰もが一流大学の学者やゲスト講演に容易にアクセスできる環境を整えることだ。現在のところイェール、MIT、ハーバード、スタンフォード、カリフォルニア大学バークレー校、およびプリンストンから60のフルコースを含む 2,395の講義(ほぼ1300時間分のビデオだ)を集めている。これら簡単なインタフェースを通じて講義はタイトル、大学、指導教官毎に閲覧することができる。また、サイトの方で異なる教官の講義をまとめて「経済危機を理解する」とか「フレッシュマンとしての最初の日」などと題したプレイリストを作成してもいる。また、Larry Page、Carol Bartz、Tim Draper、Elon MuskやGuy Kawasaki等、有名な起業家や技術系の人々からのレクチャーも予定している。
(上記記事より)

そんなわけで、web、および大学関係者の間で、静かに話題になっているのが、このAcademic Earthです。

↓ご説明するよりも、実際にアクセスしていただくのが早いでしょう。

■「Academic Earth – Video lectures from the world’s top scholars」

誰もが無料で簡単に、大学での講義の映像を視聴できる、というサイト。

現在、UC Berkeley、Harvard、MIT、Princeton、Stanford、Yale といった世界トップクラスの大学で実際に行われている授業がアップされています。

以前の記事でもご紹介したWalter H.G. Lewin教授の授業など、既にYouTubeや、MIT OpenCourseWareで公開されている授業などが見られます。

基本的に、ここにアップされている授業の映像は「Academic Earth」のために制作されたものではなく、既に各大学がOpenCourseWareやYouTubeで公開しているものだと思われます。
だからこそ短期間に、2,395という膨大な数の授業映像を集め、公開することができたのでしょう。

でも、既にどこかで公開されている映像なら、こうして新しいサイトを作る必要はないのでは?
……と思われる方もいらっしゃるでしょう。

この「Academic Earth」の特徴は、冒頭の記事でも紹介されているとおり、

<共通のフォーマットによって、あらゆる大学の授業にアクセスできる>

……という点にあります。

大学名を意識せず、教員の氏名や、扱われている内容だけをもとにして、授業を選び、アクセスすることができる。

ただひたすらに、興味関心で授業の検索を行う。
これは、非常に画期的です。

例えば、試しに「japan」と検索してみたら、スタンフォード大学とイェール大学の講義がヒットしました。
いずれも、アントレプレナーシップ、つまり起業家養成を目的にしたコースでの授業。
それぞれの大学で、どのように日本のことが題材にされているのか、簡単に比べることができます。

↑「Google」と検索したら、 Larry Page氏本人による授業が山ほど出てきたりしました。

以前のニュースクリップでもご紹介した、ゲーム「スタークラフト」を題材にした授業も、アップされていました。
冒頭から、学生の皆さんのテンションが高いです。
話題になった授業の様子をこうして実際に見られると、より参考になりますね。

大学を横断して授業を自由に視聴できるわけですからつまり、↓こんなことも可能。

■「Subjects:Political Science」(Academic Earth)

学問分野別に、各大学の授業を並べたページ。
ここからタイトルなどを元に、関心のある授業を見られます。

ちなみに上記は「Political Science」の例で、Berkeley、MIT、Princeton、Yaleの授業が同じように並びます。
もっとも授業を見る側は、それがどの大学のものであるかを意識する必要はありません。

↑「フラット化する世界」の著者として知られる、Thomas Friedman氏の講演などが普通に混じっていたりするあたり、さすがというか何というか。
なにしろ、元になっているのが多くの有名教授を抱える大学なので、授業も豪華です。

さらに画期的なのが、「Playlists」と呼ばれる機能。

■「Playlists」(Academic Earth)

これは様々な学問トピックに合わせて、サイト運営者が編集した授業のリストです。
ぜひ、ご興味のあるリストを実際にご覧になってみて下さい。

■「Playlists:Building a Company with Great People」(Academic Earth)

↑例えばこれは、「Building a Company with Great People」。
様々な企業のCEOが行った授業を集めたリストです。
アメリカの大学らしいですね。

■「Playlists:Social Entrepreneurship 101」(Academic Earth)

↑こちらは、「Social Entrepreneurship 101」。
近年、日本でも関心が高まっている、社会起業に関する講義の数々です。

「101」というのは、アメリカの大学において、もっとも基礎的な授業につけられる履修番号。
さしずめ、「社会起業入門としてオススメな授業」といったところでしょうか。

■「Playlists:First Day of Freshman Year」(Academic Earth)

↑こちらはその名も、「First Day of Freshman Year」。
最初に見ておきたい各学問のガイダンス、くらいの意味でしょう。
で、見てみると、

MIT 「Measurements of Space and Time」
MIT 「Introduction to Biology」
Yale University 「Introduction to Psychology」
Stanford University 「Introduction to Computer Programming」

……というラインナップ。
一体、どれだけ豪華なガイダンスですか。

もちろん、こんな授業を連続して受講できる大学生は、実際には存在しません。
大学を横断するサイトならではです。

このように、サイト運営側による「編集」の視点が加わっているのが、「Academic Earth」の特徴的なところ。

現在はまだありませんが、例えばノーベル賞受賞者の授業ばかりを集めたり、正反対の学説を唱えている研究者同士の授業を並べてみたり、同じ内容を扱う複数大学の授業を並べてみたりと、様々な展開ができそう。
まるで、学問のコンシェルジュのようなサイトです。

技術的な面に関しては別に目新しいところはありませんが、この「編集」という視点は新しい。
何より、こういったサイトに授業映像を提供する、アメリカの大学の度量の大きさに驚かされます。

MITが「OpenCourseWare」ですべての授業をオープンにすると宣言してから、アメリカではこうした取り組みが着々と進んでいるようです。
そこからは確固たる自信と、「社会に対する大学の使命とは何か」を常に考え実践する、強い意志を感じます。

一方、日本でも「OpenCourseWare」の参加大学は、着々と増えてきています。

■「JOCW 日本オープンコースウェア・コンソーシアム」

また各大学の人気講義を紹介するなど、編集的な工夫もされてきています。

■「各大学の人気コース紹介」(JOCW 日本オープンコースウェア・コンソーシアム)

大学を取り巻く事情が異なるからか、アメリカほどのスピードと大胆さはありませんが、それでも少しずつ取り組みは進んでいます。
これから、日本でも面白い事例が出てくるかもしれません。

それでなくても日本は、「コンテンツ」輸出国を目指しています。現在はマンガやアニメ、ゲームなどがその中心ですが、「教育」がその中に加わったっていいでしょう。
その上で世界の、特にアメリカの大学が参加している「Academic Earth」のような取り組みは、参考になりそうです。

……というか「Academic Earth」は、名前を見る限り、世界中の大学から授業を集めるのが目標のように思えます。
現在はまだアメリカの大学しか参加していないようですが、ここに日本の大学として、参加してみてはいかがでしょうか?
映像は、「日本オープンコースウェア・コンソーシアム」に開放しているもので良いと思います。

留学生30万人計画を始め、日本の大学は「世界から注目される」ポジションを目指していることになっています。
それなら、「Academic Earth」は絶好のチャンスだと思いますが、いかがでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。