大学の教室や施設を、一般に貸し出す取り組み

マイスターです。

教室を始め、キャンパス内の各種の施設を、一般向けにレンタルしている大学をご存じでしょうか。
地域貢献の一環として位置づけ、市民活動などのために提供しているところが多いようです。

ですが多くの一般生活者の方々は、あまりそうした大学の事業をご存じない様子。
市民サークルなどが活動をする際、最初に利用されるのは地元の公民館などだと思いますが、その後に「大学」という選択肢があるということは、まだまだ知られていないようです。
大学というのは、その大学の学生以外には接点がない存在だと思っている人が、多いのですね。

【今日の大学関連ニュース】
■「神戸大が教室レンタル 格安で一般に開放」(神戸新聞)

神戸大(神戸市灘区)が、大学施設を一般市民に有料で開放する取り組みを始めた。少人数の集会から大規模な講演会まで対応できる多種多様な九十五教室を用意。同市東灘区の海事科学部にあるテニスコートや野球場、サッカー場も貸し出す。料金は格安で、十五人部屋には、一時間六百四円という設定もある。
国立大学法人となり、地域貢献を重視する上で、施設開放を積極的にPRすることにした。
(略)県内外の誰でも利用できるが、営利目的や宗教・政治活動などには使えない。申し込みは希望日の一カ月前までに申請書を出す。神戸大資産管理室は「学会などの催しや授業がある日はだめなので、まずは問い合わせて欲しい」と話している。
(上記記事より)

神戸新聞で、神戸大学の取り組みが紹介されていました。

「国立大学法人」ではどうなのかわかりませんが、私立大学においては、こうした教室レンタルは以前から広く行われている取り組みです。
国立でも、その辺りに力を入れる大学が増えてきたということでしょうか。

大抵の大学は、それなりに多くの教室を持っておりますし、テニスコートや体育館などのスポーツ設備なども一通り揃えています。学生の授業だけにそれを使うのは、もったいありません。

そして、大学は地域貢献に力を入れようと思っているし、社会に向けてPRもしたい。
地域の方も、せっかくある設備を無料、または格安で使わせてくれるということなら、活用したいと思うこともあるでしょう。
ニーズがあり、大学にとって貸すメリットもあるのであれば、せっかくの施設、活用しない手はありません。

18歳人口も減少の一途をたどっており、今後はこれまで以上に、社会人を含めた幅広い層の方々と大学は関わりを持っていかなければならないと言われています。
教室レンタルはその点、若者層以外の方々と接点を設けるための、格好の機会にだってできるはず。
大学にとって、良いチャンスです。

まして国立大学法人、特に神戸大学のような総合大学では概してキャンパスも広く、教室数もそれなりにあるでしょう。しかもその整備には、少なからぬ税金が投入されてきたわけです。
そう考えると、むしろ国立大学こそ積極的に使われていない教室を開放すべきなのかな、とも思えてきます。

私立大学では、webサイトなどに施設の利用案内を掲載している例も、ちらほらと見かけますね。

(例)
■「教室の外部貸し出しについて」(明治大学)
■「本学施設の外部団体利用手続きについて」(流通科学大学)
■「施設貸出」(足利工業大学)

サイトには掲載していなくても、電話してみると貸し出しをしている、なんて例も実際にはあるようです。
担当部署は、総務課だったり、施設課だったり、大学によって様々。

当たり前ですが、大学の教育研究のための利用が優先されますので、授業があったりしたら教室の貸し出しはできません。
補講の追加だとか、一時的な教室の移動だとか、そういった授業関連を把握し、日常的に教室の管理をしているのはだいたいどの大学でも教務課ですので、教務課が連絡先になっているケースもあるようです。

また最近では、大学の関連会社がこうした貸し出し事業を担当していることも。

(例)
■「事業内容:施設管理」(大正大学事業法人ティー・マップ)
■「立教企画:施設貸出のご案内」(立教大学)

こうしたサイトを見てみると、一口に貸し出しと言っても、そのあり方は様々なのですね。

例えば開放のレベルも、

●在学生のみに開放
●(非営利の活動に限り)一般に無料で開放
●(非営利の活動に限り)一般に有料で開放
●(営利目的の活動も含め)一般に有料で開放

……などなど、大学によって異なるようです。

大学関係者にとって、大学の教室を外部に貸し出す例として一番なじみがあるのは「学会」の大会でしょうか。
学会というと、なんとなく大学のイベントのように感じてしまいますが、これだって学外利用者への貸し出しには違いありません。

単科大学のキャンパスで大きな学会が開かれるような場合、キャンパスの大部分の教室やホールが貸し出されるケースも少なくないでしょう。
その大学の教員が大会の運営に関わっているケースもあり、また教育・研究のための利用ということで、大学としてもわりと積極的に貸し出すケースだと思います。
全国的な研究活動の会場になるというのは、大学にとっても名誉な話ですし、何より自校で開催することによって、在学生達が参加しやすくなるというのも教育上、見逃せないメリット。
一般には施設を貸し出さないけれど学会は別、という大学もあるのではないかと思います。

その他の例としては、たとえば各種の資格試験などの試験会場。
TOEICや漢字検定、各種の模試などなど、様々な試験が大学キャンパスで行われています。

そう言えばマイスターも学生時代、「色彩能力検定」というマニアックな資格を受けるために、会場である池袋の立教大学におじゃましたことがあります。
もともとツタが絡まってイイ感じである上、その日はちょうど日曜日で、なんとキャンパス内で結婚式が行われており、自分が通っている理工学部だけのキャンパスとの雰囲気の違いに衝撃を受けた記憶が。
このように、何かのイベント都合で大学キャンパスに入構し、大学のイメージが変わるというケースもあるわけで、広報効果も見逃せないポイントです。

その他にも、企業のセミナーなどのために貸し出しをしているケースもあるかも知れません。

ちなみに「営利目的」での教室利用の場合は貸し出しを禁じる、という大学は少なくありません。
ただその場合、どこまでがそれにあたるのか、判断が難しいケースもありそうです。
例えば明治大学の場合、サイトを見ると

<利用の制限>
下記の場合等、お申込をお断りする場合がございますので、予めご了承ください。
・公序良俗に反する場合
・施設又は附帯設備を毀損するおそれがある場合
・宗教や思想色が強く、教育の場にふさわしくない場合
・近隣、施設内の他の利用者に迷惑が及ぶ場合
・営利目的が著しい場合
・その他、運営上、当大学の方針に沿わない場合
「教室の外部貸し出しについて」(明治大学)より)

……なんて書かれています。
「営利目的が著しい場合」というのはどのくらいからなのか、結構あいまいです。

企業の営利事業のために有料で教室を貸し出したりしてしまうと、大学がレンタルスペース事業という営利事業を営んでいることになることになり、非営利組織である大学の位置づけ的に問題が生じてくる、ということなのでしょうか。
都心の一等地にキャンパスを抱えているような大学の場合、それなりの金額でホールや大教室、会議室などを貸し出すことも不可能ではなさそうですが。

でも、例えば資格試験の会場だって、言ってしまえば営利目的での利用には違いありませんが、これは大丈夫なのでしょうか。
企業が学生募集のためのセミナーを行うのも、営利目的であるわけですが、これは大学のメリットになるからOKなのでしょうか。
このあたり、結構グレーゾーンな感じがします。そのグレーな感じが、「営利目的が著しい場合」みたいな、曖昧な表現に表れているのかも。

発想を広げてみると、教室やスポーツ施設以外にも、その気になれば色々と貸し出せるものはありそうです。

例えばインターネット。
例えば企業から年間利用費を取り、大学構内の無線LANを有償でそこの社員に開放すれば、安定した収入を得ることもできますね。
企業の営業担当者などがインターネットを利用するために日常的に大学に立ち寄るというのは、大学にとってもおいしいチャンス。ネット利用時に接続するポータルサイトなどで、企業人向け特別セミナーなどの案内をすることだって可能です。
都心の大学なら、そんなことすらできてしまいそうな気がしますが、こうした事業をやってもいいのかマズイのか、どうなのでしょうか。

上手くすれば、こうした利益を研究費などにまわしたりもできそうに思えてきますけれど、果たしてどこまでやっていいのでしょうね。
営利目的ではマズイということで、あまりにも無償または格安で貸し出したりすると、今度はレンタルスペース業やフィットネス業から、屋外インターネットを手がけるプロバイダやキャリアなどの事業を圧迫することになりかねませんし。

ともあれ、教室や各種施設のレンタル事業は、(利益を目的としない格安での提供であったとしても)大学にとっても色々なチャンスを呼び込むツールにできそうな気がします。
住宅地にある大学、都心にある大学、それぞれにやりようがありそう。駅前にサテライトキャンパスを持つ大学も増えていますよね。

貸し出し台帳に記入をする人の手間を除けば、あまり元手もかかりませんし。
大学と地域社会をつなぐ窓口として、小さなところから何かできそうな感じがします。

以上、そんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • 大学は税制的に守られていますから、「民業圧迫」しないような配慮も必要でしょう。

  • 教室がレンタルできるか調べていると,このページにたどり着きました.
    確かに学校を一般に開放するメリットはかなりありそうですね.
    ぜひ広く開放してほしいです.