龍谷大学 学徒出陣した関係者を全員調査

マイスターです。

『きけ わだつみのこえ』などで知られる、「学徒出陣」。
第二次世界大戦末期の1943年に、高等教育機関(旧制高校、旧制大学)の学生を徴兵、出征させた出来事です。
兵力不足を補うため、徴兵を免除されていた学生達もこれ以降、徴兵の対象になりました。

(正確には、いわゆる「文科系」の学生が対象だったようです。理工系の学生は兵器の開発などに必要であるため、そのまま大学に残りました)

この学徒出陣、国の正確な統計資料などは、残っていないらしいのです。
そこで各大学が、独自に調査を行っています。
この調査結果は、戦争の記録を残すという点で、非常に重要です。

【今日の大学関連ニュース】
■「戦争を語り始めた宗教者ら、龍谷大は学徒出陣を全員調査」(Asahi.com)

宗教者たちが、自らの戦争体験を語り始めた。太平洋戦争中、学生が強制的に戦地へ送り出された学徒出陣から今年で65年。多くの寺関係者が輩出している龍谷大(京都市)が、書庫に眠っていた学籍簿などを頼りに全員の消息を尋ねる調査を始めた。数々の証言からは、宗派の教えに背いて、ペンを銃剣に持ち替えなければならなかった時代の空気が伝わってくる。
龍谷大は、浄土真宗本願寺派(本山・西本願寺、京都市)の学寮として発足した大学で、寺院関係者の学生が多かった。調査対象は1941(昭和16)年在学者から45年入学者。学籍簿に載っていた延べ3908人を対象に、在学生らが戸別訪問や電話で当時の証言を聞き取っている。
(略)清水寺(京都市)名誉管長の松本大圓(だいえん)さん(86)は、史学科に在籍していた。愛知県豊橋市の陸軍予備士官学校を経てミャンマー(ビルマ)へ出陣。生きて帰れるとは思わず、写真やノートなど身の回りの品を全部燃やしたという。松本さんの妻寿子さん(81)は「小僧の立場で出陣を断ると、寺に迷惑がかかる。寺は人助けするところなのに、人殺しに行くのはつらかった、と話していた」。
(略)調査に参加している4年生の加藤正樹さん(21)は「実際に会って話を聞くと、想像もつかない世界。でも、自分たちは消してはいけない歴史を紡ぐ仕事をしているのだと思う。一言も聞き漏らせない」と話す。
(略)同大の学徒出陣壮行会には約4千人が参加し、当時の大谷光照門主が「南無阿弥陀佛」と書かれた懐中名号を学生に渡した。送り出された学生は約360人だった。
浄土真宗本願寺派は04年、門主の考え方などを表した戦前・戦中の文書が戦争に協力するものだったことを反省する見解を発表した。ただ、龍谷大は戦争協力について詳細な調査をしておらず、出陣した学徒兵の数や戦死者数も分かっていない。ここ数年、学徒出陣した卒業生らから「史実を語り継いでほしい」「生きている間に調べてほしい」との声が寄せられていた。
大学側は調査をまとめた本を出版する予定。若原道昭学長は「学生を送り出したのは、当時の状況の中では苦渋の決断だったが、亡くなった学生の無念さは計り知れない。調査を通じて史実を認識し、社会に知らせたい」と話す。
(上記記事より)

龍谷大学は、1639年に西本願寺に設けられた「学寮」からはじまった大学で、大学によれば2009年に創立370周年だそうです。
そんな歴史的経緯や、建学の精神に、「浄土真宗にもとづく大学」と打ち出されていることからもわかるように、仏教系の大学です。

そうした仏教系の大学としては、「学徒出陣」にはまた、他とは違った重みもあったことでしょう。
そんな歴史を語り継げるようにと、調査を行っているようです。

取材を受ける側も、現在、宗教的な指導者として活躍している方々が少なくないようです。
仏教の教えと、大学で学ぶ様々な教養と、そして時代の流れの中で、葛藤もあったことと思います。

調査には、現在の在学生の皆様も参加されているようですね。
調査する方も、受ける方も色々と大変だと思いますが、ぜひ今のうちに記録に残していって欲しいです。

もちろんこうした仏教系の大学に限らず、「学徒出陣」は、大学関係者達に大きなインパクトを与えた出来事です。
既に大々的な調査を行い、記録としてまとめている大学も少なくありません。

例えば東京大学では、調査結果を書籍にまとめ、出版しています。

京都大学も、調査研究報告書をまとめているほか、それをもとにした「学徒出陣」展を学生や一般向けに行っています。

■「『京都大学における「学徒出陣」 調査研究報告書』(全2巻)を刊行しました」(京都大学文学館)
■「京都大学における「学徒出陣」展 好評につき会期延長」(京都大学)

このように、(市販はされていないものの)記録として冊子などにまとめている大学は少なくありません。
その場合、大学の図書館などに問い合わせれば、閲覧できると思います。

webサイトで、大学の歴史とともに、学徒出陣に触れている大学もあります。

■「法政大学について:学徒出陣」(法政大学)
■「神戸大学の百年:戦時下の学徒出陣 空襲で被害も」(神戸大学)

現在、大学生の方は、在学中に一度は、母校の歴史をひもといてみると良いかもしれません。
戦争についての理解も深まり、ついでに大学の歴史も知ることができます。

たまたま見つけたニュースでしたが、興味深かったのでご紹介させていただきました。

ちなみに大学というのは、学徒出陣に限らず、けっこう何度も時代の波に翻弄されています。
私立大学だと、創立当初にいきなり経営危機、みたいなケースも少なくありません。
統廃合やキャンパス移転なんてのは序の口で、教授や学生の不正事件が報道されて学生募集が大ピンチ、みたいな事件まで記録されていたりして、けっこうスリリングだったりします。

マイスターも学生時代に大学図書館で、母校の「○○年史」を何度か閲覧してみましたが、記録としても読み物としても、意外に面白かったのを覚えています。
(ついでに愛校心も高まること請け合いです)
母校の周年史、オススメです。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。