「アジア版エラスムス計画」いよいよ始動?

マイスターです。

EUが行っている事業に、「エラスムス計画」というものがあります。

■「Erasmus」(European Commission)
■「エラスムス計画」(文部科学省:平成14年12月)

「The European Community Action Scheme for the Mobility of University Students」の頭文字をとってERASMUS。宗教改革などで名前が出てくる人文主義者、エラスムスの名前とかけているのでしょう。

EUのエラスムス計画は、ヨーロッパ各国内の大学教育を流動化させ、学生や教員が自由に行き来できるようにする取り組み。
単位互換制度の整備により、「最初の2年はスペインの大学で、後半の2年はイギリスの大学で」のような学びができ、ちゃんと卒業証書ももらえるという、学生側から見たら非常に魅力的な仕組みです。
エクスチェンジ・プログラムなども豊富に企画されています。

EU全体として優秀な人材を養成・確保し、政治・経済など全方面でEUに強い競争力を持たせること。大学間の連携を強化すること。EU市民という意識を持たせること。エラスムス計画には、様々な期待が寄せられています。
ヨーロッパ全体をひとつの共同体にするという、EUの壮大な取り組み。エラスムス計画には、そのEUの将来を支えるような人材を育成しようという意図があるのでしょう。

■「Erasmus – Statistics」( European Commission)

上記の統計によれば、「Academic year 2006-2007」では、エラスムス計画の事業により、159,324人がヨーロッパ内で流動したとのこと。
ヨーロッパ圏外から人材を呼び込む仕組みの整備も進んでおり、今のところは順調に機能しているのではないかと思われます。

さて、そんなエラスムス計画に影響を受けていると思われる構想が、発表されました。

【今日の大学関連ニュース】
■「アジア・太平洋地域で単位互換、5年で5千人の留学・交流目指す」(読売オンライン)

アジア・太平洋地域で、単位互換制度を中心に大学生や教員の留学・交流を進める政府の「アジア版エラスムス計画」の概要が20日、明らかになった。
日本、中国、韓国と東南アジア諸国の大学間で来年秋にも試験的に事業を開始し、5年間で最大約5000人の交流を目指す。全体で数十校程度の参加を見込んでいる。月内にも内閣官房に有識者による研究会を設置し、具体策の検討を始める。
12月にタイで開かれる東アジア首脳会議で福田首相が各国に参加を呼びかける方向で調整している。当面は日中韓3国を軸に計5、6か国でスタートさせ、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の参加を徐々に増やす。首相が東アジア首脳会議で提案する際、参加国で共同して基金を設置する構想も明らかにする方針だ。
その後、来年秋までに各国の実務者間で、参加大学や制度の詳細、予算などを協議する。日本では、主要な国立大学や私立大学に参加を呼びかける。
(上記記事より)

以前より、「アジアでもエラスムス計画を」という意見はありました。
おそらく、構想自体は少しずつ、水面下でまとめられていたのでしょう。

ただ、「EUのようにうまくはいかないだろう」ということも、以前から指摘されていました。

もともと宗教的、文化的な共通点を持つ国が多い上、国境の垣根を低くしたり、共通の歴史認識を模索したりと、様々な点で統合の準備を進めてきたEU。
対してアジアは、どうでしょうか。「アジア」という言葉はあっても、文化的な土壌や、将来の目的を共有する隣人同士だという認識がどこまで浸透しているか、ちょっとわかりません。

それに、単位互換の問題もあります。
わが国を見てみれば、日本国内での大学間の単位互換でさえも、決して十分だとは言えません。
特別な協定を結んでいるごく少数の大学同士を除き、「最初の2年は東京の大学で、後半の2年は九州の大学で」みたいなことは、できません。せいぜい、いくつかの限られた授業の単位を認める程度です。
いきなり海外が相手で、大丈夫でしょうか。

また、単位を互換するということは、「単位の価値」を統一しなければなりませんよね。
何時間学んで何単位、ということを、中国や韓国ともある程度、統一した方がいいでしょうし、学問ごとのコア・カリキュラムのようなものを開発する必要も出てくるかも知れません。
国立、私立など色々な大学が参加するわけですから、学費などの扱いも複雑だと思います。

……などなど、課題は少なくありません。
ですから海外の大学との間で学生を流動させるよりもまず先に、国内で学生が流動する仕組みを整備してみた方がいいのではないかと個人的には思います。

色々と解決しなければならない課題はあるでしょうが、しかし長期的に考えれば、こういった計画はいつか必要になるものだろうとも思います。

先ほど、ヨーロッパほどの共同体意識がないのではと書きましたが、だからこそ人材の交流が必要だとも言えます。
それにシステムを整備することで、学問する場所を求める学生や教員が、今より自由に近隣諸国の大学に行き来できるようになれば、大学も刺激を受けるでしょう。アジア内外から優秀な人材が集まり、アジア全体の競争力が向上するかも知れません。

何よりも、海外で学ぶという選択肢がもっと身近になったほうが、世の中、面白いですよね。

12月の東アジア首脳会議で、福田首相が各国に参加を呼びかけるとのこと。
各国でどのようにこの構想が形になっていくのか、注視していきたいところです。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • 初めまして。いつも拝見して勉強させて頂いてます。このアジア版エラスムス計画というのは、20日に明きかになったということですが、その概要自体はどこかで見ることが可能なのでしょうか?もしご存知であればお教えください。よろしくお願いいたします。