山梨大学 ユニークなワイン人材育成事業

マイスターです。

地方の国立大学では、その地域の特徴的な課題解決に取り組んだり、地元の産業活性化を学術面から支えたりするユニークな教育・研究が行われていることが少なくありません。

先日もご紹介したグローバルCOEプログラムで言えば、鳥取大学の乾燥地科学研究などがその一例でしょう。

さて、ネットで、こんなニュースが話題になっているようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「初の『ワイン学士』を認定 山梨大、試験合格の7人に」(山形新聞)

日本で唯一のワイン技術者養成講座を持つ山梨大で27日、講座を修了し独自の資格試験に合格した7人に、初の「ワイン学士」の認定証書が授与された。
(略)7人は、いずれも山梨県内のワイナリーで働く現職のワイン技術者で、山梨大などが昨年度に設置した「再教育コース」の第1期生。1年間のコースを修了し、同大がフランスのボルドー大学にならい創設した独自資格「山梨大学ワイン科学士」の認定試験に合格した。
(上記記事より)

山梨県はもともとブドウの名産地だということもあり、勝沼など、国産ワインの生産に取り組んでいる地域としても知られています。

そんな地域の特色が、地元の国立大学、山梨大学にも反映されているのでしょうか。
山梨大学は、日本で唯一、ワインに関する専門の研究センターを持つなど、ワインの研究・教育で日本をリードしています。

■「山梨大学 工学部附属 ワイン科学研究センター」(山梨大学)

学士・修士の6年間による「ワイン科学特別教育プログラム」など、教育面も充実しています。

■「山梨大学ワイン科学研究センター ワイン科学特別教育プログラム」(山梨大学)
■「山梨大学ワイン科学研究センター ワイン科学特別教育プログラム:教育内容(カリキュラム)」(山梨大学)

(18歳で入学した場合、最初の2年ほどは、「勉強しているけど飲めない」という状態ですね……成人になるのが待ち遠しいでしょうね)

さて、冒頭の記事で紹介されているのは、この山梨大学ワイン科学研究センターが行っている「ワイン人材生涯養成拠点」事業の取り組み。
これは文部科学省によって平成18年度科学技術振興調整費<地域再生人材創出拠点の形成>に採択されています。

■「地域再生人材創出 構想・概要 『山梨大学・ワイン人材生涯養成拠点』(PDF)」(文部科学省)

ブドウ栽培からワイン醸造までの一貫した実学教育は、地域との連携でのみ実現される。また、大学でワイン科学を学んでも、卒業後の再教育、多様なワイン人材の交流がない状況において、自助力により世界規模で進む技術革新を習得することはきわめて困難である。このことは平成17 年に実施した県内ワインメーカーに対するアンケートにおいても,裏付けられている。地域が一丸となって構築する本養成拠点は,地域ワイン産業全体の技術力を世界水準へと向上させ,地域の特色が活かされた高品質ワインを恒常的に生産するシステムを構築し,地域ワインブランドの確立とグローバルスタンダード化を実現する。
(上記PDFより)

……というわけで、若い学生時代に学ぶだけでなく、卒業後も、ワイン生産に関わる人材が「再教育」を受けられる教育体制を地域で構築することが重要だと同大は考えたわけです。

というわけで、この「ワイン人材生涯養成拠点」事業には「ワイン技術者再教育コース」が設けられており、冒頭の記事で初の『ワイン学士』となった皆様は、現職のワイン技術者として、この再教育コースのプログラムを受講していた方々なのです。

■「山梨大学ワイン科学研究センター ワイン人材生涯養成拠点:システム」(山梨大学)

単なる1カリキュラムに留まらず、長期的な視点で地域に貢献する。
研究と人材育成で地域の産業を担う国立大学ならではの、なかなか意義のある取り組みだと思います。

「山梨=ワインの名産地」というイメージと、山梨大学の位置づけにズレがないので、大学にとっても広く国内にアピールできる個性にもなるでしょう。

公立・私立大学も含め、参考にしたい取り組みです。

↓ところでこちらのページでは、山梨大学が開発した技術をもとに醸造されたワインを、地元ワイナリー四社と共同で販売しています。

■「山梨大学発ワイン」(山梨大学)

ワイン科学研究センターは、昭和22年にワイン科学研究センターの前身である醗酵研究所を創設して以来、ブドウの栽培からワイン醸造までの一貫した技術を総合的に研究している日本唯一の研究所です。ワイン科学研究センターでは、県内ワイナリーとも協力しながら、ブドウの品種改良、栽培技術の改良、新たな醸造酵母や香りなど風味に関する技術の研究開発などの成果を、国産ワインの品質改善に役立ててきました。また、山梨大学からは多くのワイン醸造技術者が輩出していて、全国のワイナリーに働く醸造技術者の多数が山梨大学で醸造技術を学んだ技術者たちです。つまり、国産ワイン愛好家の皆さんは、いつも山梨大学と縁の深い国産ワインを飲んでいる、と言っても過言ではありません。
(上記ページより)

ワインだけでなく、大学のブランドイメージもさりげなくアピール。

「ワイン」というわかりやすいキーワードが、教育・研究・広報すべてを貫いているため、webサイトを読んでいて、大学の強みが明確にイメージできます。
こういった得意分野を大事に育てている大学は、強いでしょうね。
(未成年である高校生には、どこまで伝わるかわかりませんが……そこは工夫のしどころ?)

社会に対する打ち出しの仕方、地元との関わり方といった面で、他大学にとっても参考になる部分がありそうです。

……などと思いながら、とりあえずこのワインを買ってみようかと思う、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。