入学式の式辞 学長からの様々なメッセージ(1)

マイスターです。

昨日は東大の入学式の話題をご紹介しましたが、書きながらふと思いました。

「そう言えば、他の大学の入学式では、学長はどんなことを話しているだろう?」

……と。

そんなわけで、この2008年4月のものを中心に、様々な大学の学長による「入学式 式辞」を集めてみました。

【学長の式辞】

本日の入学式には、中国から16名の留学生と、新入生以外にも中国、韓国、タイ、フィリピンから合計8名の交換留学生も出席しています。これで、本学には、中国、モンゴル、ネパール、タイ、フィリピン、韓国の6カ国から、全学生の1割近い136人の留学生が学ぶことになります。
また、社会でこれまで活躍してこられたシニア世代の方2名も入学あるいは編入学してこられました。皆さんの市民としての、また、生活者としての経験は本学に新たな刺激を与えてくれるものと期待しています。
さらに、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地から本学に集まってこられた君たちを迎えることができました。こうした本当に多様な文化的、社会的背景の君たちが集うという環境は、大学にとって大きな財産であり、君たちにとっても大学が貴重な出会いと発見の機会となるでしょう。
「学長からのメッセージ 【2008年度入学式 学長式辞】 2008.4.2」(関西国際大学)より)

関西国際大学、濱名篤学長の式辞から。
ご専門は教育社会学、高等教育論です。

高校までと大学とで大きく違うのは、様々なバックグラウンドを持った人が集まるという、その環境。
この点に触れている学長は少なくありませんでした。

「全国各地から」というのは多いのですが、シニア入学生にまで言及されている方はそう多くはありません。

最後に一言、武蔵大学はあなたを選んだのです。選ばれたという自信を持って四年間を過ごして下さい。本日ご入学の1,150名の皆さんの一人ひとりが武蔵大学にご縁があったということです。あなたの人生の大切な四年間を武蔵大学で過ごすということの意味をかみしめて下さい。この四年間を有意義なものにするか、無意味なものにするかはあなた自身のこれからの姿勢に掛かっているのです。まじめで、地道な努力を怠ったり、そうすることが格好悪いというような感情は捨てて下さい。安心して、武蔵大学の教育を受けて下さい。必ずや、四年後には満足のいく結果が得られるように、わたくしたちは自信を持って皆さんを教育していきます。
「平成19年度 武蔵大学入学式<平林和幸学長 式辞>」(武蔵大学)より)

武蔵大学、平林和幸学長です。
こうして出会った縁を大切に、というメッセージも、学長の式辞では良く出てきます。
でも、確かに、最終的にはそこに尽きるのですよね。

様々な状況の中で集まった学生達。
志望動機も、これからやりたいことも、みんな違うでしょう。
でもこうして出会ったからには、今のこの環境を最大限に大切にして、素敵な4年間にするのが大事ですよね。

アメリカの社会学者であり、教育者でもあるマーティン・トローという人が、大学進学率によって形態的な分類をしています。進学率が15%までを「エリート型」、15%から50%までを「マス型」、50%以上を「ユニバーサル型」と呼んでいます。多くの先進国はいまや「ユニバーサル型」に移行しており、大学教育を根本的に考え直す必要のあることが指摘されています。
日本もいまや「ユニバーサル型」に突入したわけですが、各個人から見ますと、そういう統計的な計算は全く意味がなく、自分の希望する大学に進みたいということで激しい競争があり、皆さんは、そういう競争を勝ち抜いて、今日こうして大阪府立大学の入学式に臨んでおられるわけです。130万人の同年齢層の中でほんの一握りの選ばれた人、エリートです。エリートにはエリートとしての自覚と責任が伴っています。
「平成20年度入学式式辞」(大阪府立大学)より)

こちらは大阪府立大学南努理事長・学長の式辞から。
マーティン・トロウの「エリート型」「マス型」「ユニバーサル型」という大学モデルは、現代の大学全入の状況を分析する際にもしばしば引用されます。

この話を式辞でお話しした学長は、他にも何人かいらっしゃいました。
時代を反映したお話かなと思います。

本学に入学された皆さんは、自らの考えに基づいて志望校を選び、志望学部を決められて来たことと思います。しかし、皆さんの中には、今この緞帳が上がり、壇上に一仏両祖、すなわち釈尊と、高祖・道元禅師、太祖・瑩山禅師の像が現れた時、驚かれた人が多いのではないでしょうか。
附属高校から来られた皆さんは別にして、ほとんどの入学生は、いままで、本学が禅・仏教を建学の理念としていることを、あまり意識されていなかったのではないでしょうか。
私立大学には、それぞれの個性があり、それを大切にして運営されています。この駒澤大学では、大学の憲法とも言える「寄附行為」において、「仏教の教義並びに曹洞宗立宗の精神に則り、学校教育を行うことを目的とする。」と明記されています。
「平成20年度入学式 学長式辞」(駒澤大学)より)

駒澤大学、池田練太郎学長のお言葉。
学長のご専門は仏教学です。

新入生がびっくりする様子が目に浮かびます。
考えてみれば当たり前のことなのですが、「仏教系の大学に進学した」という認識があまり強くない方も、確かにいらっしゃるでしょう。
そう考えると、こうした最初のカルチャーショックも、大学のアイデンティティを知らせるという意味で、大事な場なのかも知れません。

仏教系だけではありません。ミッション系の大学では、賛美歌を聞きながら礼拝堂で入学式を行うところもありますね。
そういったセレモニーで、初めて「なるほど、ミッション系(仏教系)とはこういうことなのか」と実感されるかたも多いのではないでしょうか。

ちなみにこういった宗教系の大学では、教職員の一定割合がクリスチャンだったり、仏教徒だったりすることも。
例えば「実は仏教系だ」という、ある工業系の大学では、教務課の管理職が全員坊主頭をしておられます。
そんな風景も、キャンパスに通い始めると、慣れてくるのでしょう。

学長としてのお願いを申し上げます。大学のイノベーションは学生の参加と学生の視点に立った業務の見直しによってもたらされます。皆さんも宇都宮大学の構成員として、大学の教育だけでなく、運営にも積極的に参加し、協力して欲しいと思います。皆さんが、教員の授業を評価します。皆さんが、今日お渡しした広報誌『UU Now』を、編集します。また、現在計画中の学生サービスセンターは、皆さんへのサービスをたらい回しせず、その場で対応するワン・ストップ・サービスを行います。また、80名が入室できる新学生寮「陽東寮」が5月から開設されることになっています。このようなイノベーションを行っていくために、学長との懇談会などを通じて、皆さんの要望や意見を積極的に反映させていきます。
「平成19年度入学式「学長式辞」」(宇都宮大学)より)

宇都宮大学の菅野長右ェ門学長です。

サービスの向上、大学への参画。
これも、かつての大学では、あまり聞かれなかった式辞の一つかも知れません。

(皆様の大学では、こういった式辞は聞かれますか?)

次に本学の卒業生には多様な人材がおりますので,順に紹介させていただきます。宮本常一先生は日本の民俗学の大御所であり,著書が100冊以上もあります。灰谷健次郎さんは『兎の眼』等を始め,教育現場と子ども達の心を描いた作家です。作曲家の宮川泰さん,漫画家の新田たつおさん,それから一昨年紅白歌合戦に出場したBONNIEPINKさんも皆さんご存知なのではないでしょうか。そして先月新聞に載っておりましたが,四国九州のリーグからレッドソックスへマイナー契約した松尾投手がおられます。それから皆さんがよく知っているガンバ大阪の,そしてトルシエジャパンのキャプテンを務めた宮本恒靖選手・・・のお母さんは本学の卒業生です。残念ですが宮本選手は同志社です。このように,本学には素敵な先輩諸君が沢山います。もちろん君たちが卒業してきた小学校中学校の教師の中には,本学の卒業生が必ずいたはずです。
「平成20年度入学式式辞」(大阪教育大学)より)

大阪教育大学、長尾彰夫学長。
ご専門は教育方法学だそうです。

ちょっとしたジョークを織り込みつつ、最後に(おそらく一番伝えたい内容であろう)教育界での卒業生の活躍をPRするなど、技が光ります。

最近、高校生、大学生の「学力の低下」や「勉強離れ」が盛んに報じられます。 東京大学の研究グループの調査では、高校生の5人に1人は、高校3年生の時に家でほとんど勉強せず、2人に1人は勉強時間が2時間以下だそうです。
一方、大学入学後の学生の72%が、「高校でもっと勉強しておけばよかった」と感じているということです。こんな風に反省をしながら、心を新たに大学での勉学に取り組んでいただけるならば、これは結構だと思います。
ところが、私たち大学の教員にとって、「これは困る」という調査結果もあります。それは、大学生の4人に3人が、「自分で勉強するより、必要なことはすべて授業で教えてほしい」と考えているということです。
私たちは、大学では、「教えられたことを覚える」のではなく、「教えられたことにヒントを得て、自ら学ぶ」ことが基本だと考えています。ですから、「授業で全部教えてほしい」と考えている学生が4人に3人というのは、困ったことなのです。
「2008年度入学式 学長の式辞」(愛知県立大学)より)

愛知県立大学 佐々木雄太学長。
大学での学びに対する姿勢について、数字を上げつつメッセージを送ります。

これも教員の方のイメージと、実際の新入生の意識とに、差があるところだと思います。
その差を、最初の出会いのところで伝えるというのは、大事なことかも知れません。

……と、あれこれとご紹介させていただきましたが、ちょっと長くなってきました。
続きは次回に。

以上、マイスターでした。

—————————————————–
(※どうやら更新がうまくいっておらず、公開されるタイミングがいつもより少し遅れてしまったようです。失礼いたしました)

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。