進む「過去問題」の活用(1) 全国75大学の他、センター試験も過去問利用を検討

マイスターです。

少し前まで、大学入試問題には、ひとつの「暗黙のルール」がありました。
それは、「自校・他校の過去問題を再利用しない」ということです。
その問題を解いたことがある受験生が有利になってしまう、とか、他校が作成した問題の著作権の関係とか、そういった理由によるものだと思います。

しかし最近は、過去問を積極的に共有し、再利用しようという動きが進んでいます。

■入試過去問題活用宣言 ホームページ

上記は、岐阜大学を中心に、全国の国公私立大学75校(平成19年10月1日現在)が参加する、「入試過去問題活用宣言」のwebサイト。それぞれが著作権を持つ過去の入試問題について、自由に利用できる協力関係を結ぶことを決めています。

そして今回、こんな報道がありました。

【今日の大学関連ニュース】
■「「過去問題」の使用解禁へ 大学入試センター試験」(中日新聞)

大学入試センターの吉本高志理事長は5日、東京都内で開かれた国立大学協会の総会で「過去に出題した問題を、センター試験で使えるかどうか検討している」と述べた。一定の条件を付けた上で、過去問題の使用解禁に踏み切る方向で文部科学省などと調整を進めるとみられる。
導入時期は未定だが、国公私立770校以上の大学・短大が参加しているセンター試験が方針転換すれば、国公立大2次試験や私立大入試にも影響を与えそうだ。
センター試験はこれまで、受験生間に不公平が生じないよう過去問題からの出題を避けている。しかし過去問題との重複の有無を確認する作業や、限られた題材から問題を作成する作業などで作問担当者の負担が年々重くなり、良問の作成が難しくなっているとの指摘が以前からあった。
センターは2005年度に教育関係者らによる懇談会を設置。過去問題使用の可否も検討しているが、使用に肯定的な意見が多いという。
(上記記事より)

大学入試センター試験でも、センター試験の過去の問題を再利用するという検討が成されているとのことです。
センター試験がこういった方向に動くことで、影響を受ける大学も出るでしょう。

では、どうして今、こういった過去問再利用の動きが進んでいるのでしょうか。

それには、以下のような理由があると思います。

【調査・問題作成に大変な手間と時間がかかるから】

上記の記事にもありますが、毎年、自校はおろか他大学の過去問題までもを詳細に調べ、出題されていない「オリジナル」の問題を作るというのは、非常に大変です。
(例え意図的なものではなくても、結果的に一部分が似てしまっただけで、大学側のミスとして、報じられてしまうことすらあるようです)

調査をするにも、日本全国の大学入試問題(それも過去のものまで!)チェックするなんて、考えられますか?
さらに、その中で、受験生の能力を適切に測り、学科が求める要件を満たし、かつ、難易度のバランスも取れた問題を作成するのです。
これを誰が担当するかというと、通常は、大学の教員です。

受験生だってがんばっているのだから当然、それくらいするべきでしょう、と思う人もいるかも知れません。

しかし、大学の教員だって、万能ではありません。
高校の教育課程の内容をよく理解し知り尽くした上で、選抜に適した問題を作成するのは、かなり大変です。

通常こういった役割を担うことが多いのは、大学1~2年生に対して数学や理科、英語などを教えている、一般教養担当の教員でしょうが、彼等は研究者ではあっても、別に「試験(testing)」作成のプロではありません。どういう設問を作ったらどういう能力が測れるかとか、過去に出題した問題ではこういった傾向があったかとか、そういったことに詳しいわけではないのです。
(中には、詳しい方もいるかも知れませんが、多くの試験問題作成委員は、そうではないはずです)

しかも近年、一大学当たりの入試の回数は増加しています。
受験の機会を増やして受験者数を大きくするために、入試日程を何度も設けているからです。
その分、作業量も増加しているのです。

総合大学なら何人かのチームで無理なく問題を作成することもできるでしょうが、ちいさな単科大学などですと、問題を作成できる一般教養系の教員がそもそも少なかったりします。
結果、一部の教員に、どうしても負担が集中する形になることも多いかと思われます。
そして基本的には、他大学で同じような問題が出題されていないかという調査を行っている大学が多いと思います。この作業量も、相当なものがあります。

加えて、大学の教員である彼等には近年、かなりの社会的なプレッシャーが寄せられています。

研究に関しては、「日本の大学の研究力を世界トップ水準に!」とか、「大学教員は原則として全員、期間雇用に!」とかいった声が聞こえてきます。研究力が足りないから努力せいという、上の方からのお達しもしばしばです。
教育に関しても、「日本の大学は研究重視で、教育力がない! 学生のために、もっと教育を強化すべきだ!」とか、「授業のレベルが低すぎる。準備に時間をかけ、工夫し、水準を高くしろ」とかいった声が聞こえてきます。教育力が足りないから努力せいという、上の方からのお達しもしばしばです。
さらに、学内のことを取り決めるための、非常に長い会議が毎週のように行われます(大学には、大学経営を専門とする職員達がいるにもかかわらず、細かいところまでいちいち教員の会議で決めようとするという特徴?があります)。

正直言って、研究力と教育力を世界水準まで向上させつつ、学内の物事を決めるを週に何時間もこなしつつ、その上、年に何度もある試験のための問題を作成していくというのは、かなりのスーパーマンでも難しいんじゃないかな、なんてマイスターは思うのです。
世界水準の研究力、教育力とよく言われますが、世界の大学では、教員はこんなに会議や書類作成に追われていないと思いますし。

大学入試センターの問題の場合は、少し事情が異なるところもあるかと思いますが、調査などにかかる負担を無視できないという点は同じ。
むしろ、平均点の調整など、求められる要件は通常の入試問題よりも重いですし、科目数も多いのですから、大変です。

ちなみに文部科学省が昨年7月に発表したところによると、文科省の調査では、入試問題の作成を企業や予備校などに外注している私立大学は全国で71校あり、うち18校、はすべての教科・科目の問題を外注しているそうです。(外注された科目の内訳は、国語:49校、数学41校、外国語41校、理科31校、地理・歴史29校、公民15校)
外注していた大学からは、「一般教養などを担当する教員がいない」「入試形態が幅広くなり、学内で対応しきれない」「問題の質の確保に自信がない」などの説明があったそうです。

こうした状況の中で、「過去問題を利用しよう」という発想が出てくるのは、当然というか、仕方がないように思いますが、いかがでしょうか。

もう一つの理由は……と書こうとしたら、すでに結構、長くなってしまいました。
続きは明日にします。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。