発達障害のある学生、大学が支援

マイスターです。

高校のとき、障害のある子供達と一緒に買い物に行ったり、遊んだり、食事をしたりする一泊二日のプログラムに参加したことがあります。地元の社会福祉協議会が主催したものでした。

障害と一言でいっても、世の中には色々な方々がいます。
マイスターが出会ったのは、手や足が不自由な方、車椅子の方、視力が非常に弱い方、知的障害のある方などですが、障害の種類も程度も、様々でした。
(だから本当は、「障害がある」の一言では言えないんだと思います)

このとき、どこまで深いことが理解できたかはわかりません。
目の前の子供達と、自分なりに向き合おうと必死で、気がつけば何も分からないうちに二日間が終わっていたような気もします。

結局、プログラムを修了してみて思ったのは、
「こんなに違うのか」ということと、
「全然自分と違わないじゃないか」ということでした。

たったの二日間でできることは、そう多くはなかったと思いますが、この「違うところ」と「違わないところ」があるという事実は、高校生のときのマイスターにとっては、それなりに大きな発見だったと思います。
(このプログラムの狙いも、そこにあったのでしょう)

その後も、障害のある子供達と遊んだり、パラリンピックのボランティアをやったりという体験をしてみました。自分なりに関連の本を読んだりはしましたが、未だに、詳しいことまでわかっているとは、とても言えません。
ただ、詳しくないまでも、そんな体験を通じて、自分なりにこうしたテーマについて考えるようにはなったのかな、とは思います。

さて、福祉や医療については素人のマイスターですが、素人なりに知ったこともあります。
障害には、「周囲から見てわかりやすい障害」と、「素人には、すぐにはわかりにくい障害」があるらしい、ということです。
(どちらがより深刻か、ということではありませんので、念のため)

今日は、そのうち、「わかりにくい障害」についてのニュースをご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「発達障害の学生の人づきあいを大学が支援 京大など」(Asahi.com)

各地の大学で近年、自閉症やアスペルガー症候群など発達障害とみられる学生が目立っている。人間関係などに難しさを抱え、大学に通わなくなる学生も。かかわる全教員が特性を理解し支える京都大学、インターネットによる支援体制をつくる富山大学など、フォローに乗り出す大学が出始めた。
京都大学では、高機能自閉症の3回生男子(21)を、所属学部の教職員やカウンセラーがチームで支えてきた。
「遠回しな表現を理解できません」「否定的な言葉かけに過剰反応します」。合格後すぐ、母親は、成育歴や問題点をファイルにまとめて、理解を求めた。大学側は、高校の担任からも話を聞き、相談役を決めた。情報は、かかわる全教職員で共有した。
1回生の6月、この学生が教務課に退学届を手に飛び込んできた。「もう京大生としてやっていけない」。語学で音読がよくできていないと指摘され、パニック状態だった。1時間ほどじっくりと聴くと、落ち着いた。
相談役の職員(56)は、今も年6回面接をする。学生は「いつでも相談できて助かった」。京大では今後、様々な障害のある学生の支援を、大学全体で継続して進める学生センター設置を検討中だ。
高知大学は06年度から、入学時の健康診断で自閉症傾向が強ければ、保健管理センターの面接に誘う。早期コンタクトで、気軽に相談できる体制づくりを狙う。発達障害が疑われる学生は、06、07年度新入生でそれぞれ複数。また昨年度、センターへ相談に来た中にも十数人いた。
富山大学は4月、学生と教職員向けのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を立ち上げる。面と向かっての相談が苦手な学生向けに、カウンセラーとネット上でやりとりできる。
「孤立させたくない」と斎藤清二保健管理センター長(57)。年100人ほどの新規相談者中、昨年は1~2割に発達障害が疑われたという。
多くは、過去に診断を受けていない。「知的レベルが高く、気づかれずに来た」と斎藤さん。
国立特別支援教育総合研究所などが05年度、全国の大学や短大の相談担当者らに実施した調査では、過去5年間で約760校のうち3割が、発達障害の診断があるか疑いのある学生の相談を受けていた。
(上記記事より)

「発達障害」

という言葉、聞き慣れないという方も多いかと思います。

上記の記事の解説欄では、

《発達障害》
(1)自閉症やアスペルガー症候群を含む「広汎性発達障害」
(2)落ち着きがない「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」
(3)読み書きや計算など特定分野が困難な「学習障害(LD)」など。
脳の機能障害が原因と考えられている。文部科学省の02年調査では、普通学級に通う小中学生の6.3%に発達障害の可能性があるとされた。05年4月、早期発見と支援を国・自治体の責務とする発達障害者支援法が施行された。
(上記記事より)

と、説明されていますね。
でも、まだちょっとイメージしづらいかも知れません。

文部科学省は、これらの発達障害について、以下のように定義をまとめています。

【主な発達障害の定義について】
■自閉症の定義 <Autistic Disorder>
自閉症とは、3歳位までに現れ、1他人との社会的関係の形成の困難さ、2言葉の発達の遅れ、3興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
■高機能自閉症の定義 <High-Functioning Autism>
高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、1他人との社会的関係の形成の困難さ、2言葉の発達の遅れ、3興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。
また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
※アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害に分類されるものである。
■注意欠陥/多動性障害(ADHD)の定義 <Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder>
ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
■学習障害(LD)の定義 <Learning Disabilities>
学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。
(「主な発達障害の定義について」(文部科学省)より)

例えば学習障害(LD)の場合、基本的には知的発達に遅れがなく、学ぶ能力を持っています。
だから、普通に受験勉強をして、大学に合格する方もいますし、学ぶ意欲だってあります。
だけど、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する、といった特定の能力のうち、どれかがなかなか身に付かなかったり、うまく使えなかったりする、という状態です。

注意欠陥/多動性障害(ADHD)の場合、一つの事に長時間集中する事が難しくて、ちょっとしたことですぐにほかの事に注意がそれてしまったり、じっとしていなくてはいけない場面でもそれがなかなかできず、手足をそわそわと動かしたり、席を立ってしまったり、質問が終わる前に答えてしまう、順番が待てないといった「衝動」で動いてしまったりする、という状態です。
でも、だからといって、学びそのものが不可能かというと、そんなことはありません。

「文字は理解できるけど、耳で理解することが非常に苦手」

とか、

「テストは合格できるけど、履修のガイダンスが理解できない」

とか、

「授業中に、ひとりで質問を何十分も続けてしまう」

とかいうのは、別に「学力がない」のではありませんよね。

マイスターも含め、専門的な知識を持ち合わせていない限り、ちょっと接しただけではこういったことにはなかなか気づけないものです。
発達障害という障害があることを知らないと、単に「落ち着きがない」とか、「さぼっている」とか、「要領が悪い」とかいったように受け取ってしまう方もいるかも知れません。

でも、少し人より苦手なことがあるだけで、そこさえカバーされれば、学びには全く問題がないのです。
ですから、

「じゃあ、どうやったらその人が、その人なりの方法で学べるだろうか?」

……と考えた方が、その人のためにも、社会のためにも、いいですよね。

そんなわけで、冒頭の記事にあるように、大学で発達障害のある学生をサポートする取り組みが進んでいるというわけです。
記事では、専門家が常駐し相談に乗るなど、支援体制を充実させる大学の例が紹介されています。

しかし一方で、他の多くの大学では、ここまでの取り組みはまだまだなされていないのが現状です。
冒頭の記事では、2005年の時点で、過去5年間に約760校のうち3割が、発達障害の診断があるか疑いのある学生の相談を受けていたとありますが、サポートはおそらく、追いついていません。
専門知識を持ったスタッフがいるかどうかは、発達障害のある受験生にとっては大変大きな問題です。

また専門家だけでなく、学生に関わるすべてのスタッフが最低限の知識を身につけ、理解を深めておくことも重要です。
そこで2005年には、↓こんな本も出版されました。

この本は、大学で、発達障害のある学生を支援するためのガイドブックです。
マイスターのような福祉の門外漢を対象に書かれていますので、わかりやすいです。

……と、素人なりに、現状についてのご説明をさせていただきました。

マイスターも、教育業界にいる身として、こうしたテーマについては勉強していきたいと思います。

何か間違っている点や、適切でない表現などが文中にありましたら、ご指摘いただければ幸いです。
また、「こんな例もある」とか、「最近は、さらにこんな取り組みも進んでいる」といった事例がありましたら、ぜひ教えてください。
記事にてご紹介させていただきたいと思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • いつも拝見させてもらっています。
    確かに、発達障害等の脳の障害を持った学生が増えていると言う話をよく耳にします。
    本学でもこの発達障害をテーマにした教職員研修が昨年行われました。
    各大学でも、身体障害や発達障害のある学生に対していろいろな取組が行われており、それは当然のことだと思います。
    しかし、問題も色々あります。
    特に私立大学の場合は、障害のある学生に対しての特別な取組にかかる費用の問題が大きいです。
    収入の大半を授業料収入で占める私立大学では、障害のある学生に対しての特別な取組にかかる費用も当然授業料収入から支出されております。
    つまり他の学生から徴収した授業料が一部の学生のために使われることになります。
    このことに対して、声を挙げる事はタブー視されますが、ある意味、正当な声だとも感じます。
    かと言って、障害のある学生だけ授業料を割り増しにする訳にもいきません。
    マイスターさんが紹介された記事は国立大学の取組でしたが、国からの交付金が多くを占める国立大学では、あまりそういった声は出ないのかも知れませんが、私立大学においては、予算立ての問題がある事も事実として知っていただきたいです。
    ただだからと言って、私立大学では特別な取組をしなくていいということではもちろんありません。
    障害を持った人や弱い立場の人をみんなで支え合おうという優しい気持ちを持った学生を育てるような取組も必要ではないだろうか。
    長い目で見て、そうやって育った学生が社会に多く排出されたときに、人に優しい社会に変わっていくのだろうと思います。
    したがって、そんな取組(教育)を行う事が大学にとっては大切だと思います。

  •  この記事では京大など大手の大学だからこそニュースになっていますが、小規模の私立大学ではとっくに対策済みのところが少なくないと思いますよ。
     少人数制教育を売り物にする大学では指導困難な学生への対応にも手を抜くわけにはいきませんし。学生のほうでも、マスプロ教育に対応することに不安がある場合、学生数/教員数の小さな大学を選ぶ傾向にあるでしょう。
     ウチの大学でも、保護者、保健室、カウンセラー、学科などで連携を取りながら個別の対応をやっています。