医師不足を解決せよ(2): 医学部受験生を支援する取り組み

マイスターです。

■医師不足を解決せよ(1): 医学部卒業生を地域に定着させるには?

今日は、昨日の続きです。」
「医学部の定員増」と「地域枠」および「へき地勤務枠」の設定……以外に、自治体が進めている施策とは、何でしょうか。

【今日の大学関連ニュース】
■「医学部受験支援『指定校』 旭東など6校軸に 道教委が調整」(北海道新聞)

地域医療の担い手確保のため、道が二○○九年度から予定する道内高校生の医学部受験支援策「地域医療を支える人づくりプロジェクト」で、道教委が旭川東など道立高六校を、受験指導を強化する「医進類型指定校」とする方向で調整していることが八日、分かった。
ほかに指定校の候補となっているのは小樽潮陵、室蘭栄、苫小牧東、釧路湖陵、帯広柏葉。
プロジェクトでは、道央(石狩、後志、胆振、日高、空知)、道南(渡島、桧山)、道北(上川、宗谷、留萌)、釧路・根室、十勝、オホーツク(網走)の六圏域に指定校を置く方針。道教委は道南、オホーツク両圏域にも指定校を置く考えで、指定校数は最終的に地域バランスやニーズなどを考慮して決める。
道教委は「進路を選択する中学生のこともあり、できるだけ早く調整を進めたい」としている。
指定校では理数系科目の教員を増員し、二、三年生を対象に特別コースを設置。特別コースでは普通科より授業時間を多くするほか、夏休みに集中講座を開いたり、予備校講師や現役医学生を招くなどして受験指導を強化する。また、近くに指定校がない地域への対応策も検討する。
(上記記事より)

そんなわけで、医学部進学希望者の受験指導に力を入れる自治体が増えているのです。

遠方の受験生が地域に定着してくれるのを期待しているだけではダメだ。かといって、地域枠にも限界がある。
じゃあ、地元の高校生の学力を上げて、他県の受験生に対抗できるレベルになってもらおう。
そんな発想ですね。

これだと、北海道内にある医学部への進学が増えることはもちろん、「他県の医学部に進学し、将来、北海道に帰ってくる」人を増やすことにもつながります。
(なんだか、鮭の放流を連想させます……)
見ようによっては、「地元が一丸となって、外からの受験生と戦おうとしている」構図だと捉えることもできるかもしれません。

北海道は、地域のバランスなどを考慮しつつ、公立高校のいくつかを、受験指導を強化する「医進類型指定校」に指定。
道をあげて、地元高校生の医学部受験をバックアップしていこうという、かなり大胆な作戦に出ました。

「進路を選択する中学生のこともあり、できるだけ早く調整を進めたい」とあります。
北海道では医師を目指す場合、中学生の段階から決断を迫られることになるのかも知れません。

そして、同様の取り組みを進めているのは、北海道だけではありません。
医師不足に悩まされている自治体が、着々と動き出しているようです。

■「08入試最前線(4)医学部受験 自治体が応援」(読売オンライン)

年が明けたばかりの4日、青森市にある教職員の研修施設「県総合学校教育センター」で開かれた県教委主催の冬期実力養成セミナー。対象は、医学部を目指す県内の高校2年生だ。引率の高校教師たちも部屋の後ろでメモを取る。
医学部、難関大を目指す生徒対象のセミナーは3年前から春休みと夏休みに行われてきた。今回は1月に日程を変え、医学部コースと難関大学コースの日程を分けて開催。医学部コースでは、東京から大手予備校講師を招いて2泊3日で、英語、国語、数学、化学、小論文の講義を受ける。夜も食堂や自室で自習する勉強漬けの3日間だ。引率の教員も、予備校の方法を学校の指導に生かすため、参加している。
(略)医師不足が目立つ東北では、他県も事情が同じだ。山形県では今月、高校1年生に、大学の雰囲気を感じながら学ばせようと県立保健医療大学を会場にした受験講座を実施。岩手県では夏休み、医学部を含む難関大志望の高校生向けに、高校教員や予備校講師が講義をしている。秋田県では夏休みに、県内各地の病院で高校生向け医師体験プログラムを行っている。
青森のセミナーで、生徒が3日間で負担した費用は宿泊費、食費の計4050円だけ。その手厚さは深刻な医師不足の裏返しと言える。
(上記記事より)

この通り、どこも必死。
高校生達は既に、「未来の地元を支える医師候補生」として、地域の期待をずっしりと背負っている状態のようですね。
高校生達にかかるプレッシャーも相当なものだろうな……と想像します。

でも医学部進学を目指す高校生にとっては、こうしたバックアップはとても心強い存在でしょう。
自治体によっては、受験指導だけでなく、地元で活躍する医師の話を聞いたり医療現場を見学したりという取り組みも行っているようです。

「地域社会全体で自分達の医師を育てる」という姿勢には、むしろ他の自治体が見習うべきところも多いように思います。

というわけで、地域の医師を養成する様々な取り組み。
いかがでしたでしょうか。

医師不足は、教育だけでなく医療政策や地域行政なども絡んだなかなか複雑な問題です。
国や大学、自治体が積極的に解決に乗り出していますが、何しろ医学部は6年間ですから、結果が出るのはしばらく先。
手を打ちつつ、気長に待つほかありません。

ついでに触れておくと、地方の医学部が定員を増やしたことに危機感を増やした私立大学医学部も、対抗策を講じています。

■「私大医学部、納付金値下げ続々 国立大の定員増視野に」(Asahi.com)

都内の私立大医学部が来春入学者の入学金や授業料などの納付金を相次いで値下げする。優秀だが経済的余裕がない学生を迎え入れるのが狙いだ。来春には地方の国立大医学部が定員を増やすことが決まっており、優秀な学生を獲得しようと私立と国立の競争は激しさを増している。
昭和大医学部(品川区)は来春から、6年間合計の納付額を今より400万円安い2650万円とする。入試の成績上位者は、500万円安くする。守屋明俊教務部長は「最近、学生の水準が、学力以上に人間性の面で低下している。両方優れているのに高い学費を理由に受験をあきらめている受験生に来てほしい」と話す。
同大の06年度の収入は1056億円。学生納付金は100億円で、付属病院の医療収入647億円に次ぐ大きな収入源だ。今回の値下げで年間5億円の減収となるが、守屋部長は「現在の利益でぎりぎり対応できる。いっそう経費節減を進めていきたい」。
さらに大幅な値下げに踏み切るのが順天堂大(文京区)だ。880万円引き下げて同2090万円とする。日本医科大(同)は同27万円減だが、保護者に負担感が大きい初年度納付金を588万円と52万円値下げする。

(上記記事より)

様々な方々の思惑が交錯する中、本年度の一般入試はこれからスタートします。
どのような結果になるか、地域社会も注目しています。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。