学長向けの特訓研修 競争に勝てる大学を目指して

マイスターです。

今や、大学関係者のためのセミナーというのは、そう珍しくありません。
選ばれる大学、学生に満足される大学になるために、教員や職員を対象としたFD(Faculty Development)、SD(Staff Development)の取り組みが盛んです。

↓こういった専門のサポート組織も生まれています。
■特定非営利活動法人 大学職員サポートセンター

大学を動かすプロフェッショナルを育成しようという流れが、少しずつ起きてきているということでしょう。

さて、そんな中、興味深い報道がありましたので、ご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「大学間競争生き残れ、立命大副総長らが『学長特訓塾』」(読売オンライン)

大学全入時代の激しい競争を勝ち抜く大学トップを養成しようと、本間政雄・立命館副総長(大学経営論)らが今夏、全国の大学学長らに参加を呼びかけ、「学長特訓塾」を開講する。「戦略的広報」「危機管理」などのテーマで専門家が講義し、〈生き残り策〉を伝授。リポート提出など宿題も多く、学長らが及第点を取れるか注目される。
(上記記事より)

というわけで、学長を「特訓」によって鍛え、競争を勝ち抜ける大学をつくろうという取り組みです。

記事によると、この「学長特訓塾」の内容は以下の通り。

●およそ2ヶ月の間に、150時間のカリキュラムを設定。東京都内などでの開講を想定。
週末の合宿などで集中的に学ぶ。

●「危機管理の専門家や広告会社幹部ら」が講師を務め、学長自らが広告塔となるPR法や多様な入学選抜、教職員の人事評価や資金調達と運用などを学ぶ。「教職員の不祥事や付属病院での院内感染発生」といったケーススタディも。
受講生同士の討議や模擬記者会見も行い、毎回レポート提出を課す。

ところで、大学経営の専門家と呼べる人は、果たして日本にどのくらいいるのでしょうか。

例えば私立大学の場合、「大学」のトップである「学長」と、大学の他、付属校なども含めた学校法人全体の経営責任者である「理事長」とが分かれていることが珍しくありません。
両者の役割は違います。学長は、大学の学術的な価値向上に責任を持つ立場だと思います。理事長はどちらかというと、資金の確保や全体の予算配分などに責任を持つ、「経営者」でしょう。

では実際、こういった能力に秀でた方が学長、理事長に選出されているのでしょうか。
学長も理事長も、通常は学内選挙で選ばれるケースが多いと思いますが、客観的に見てみる限り、「高等教育政策に通じているからあの人を学長選ぼう」とか、「あの人はMBAを持っているし、企業の取締役を務めた経験もあるから、理事長に最適だ」とかいった理由で選んだと思われるケースは、あまりないように思います。

研究者として専門分野で秀でた成果をあげたからとか、学部内で幅をきかせているからとか、そういう理由で学部長になり、学長になり、理事長になっていくというケースが少なくないのではないでしょうか。

そう、つまり大学の学長や理事長というのは、少なくとも就任した時点では、大学経営のプロフェッショナルではないことが多いのです。

ですから、(そもそも現在の選ばれ方が良いのか悪いのかはさておき)就任後の大学トップに対して、大学経営のための研修を行うというのは、考え方としては非常に大事だと思います。

もっとも、カリキュラム内容や研修の仕方などについては、これが理想的なものなのかどうか、ちょっとわかりかねます。

教職員の人事評価や、資金調達・運用といった知識は、まさに必要不可欠のものでしょう。
教職員が不祥事を起こしたときのメディア対応なども、(なるべくなら起きて欲しくはないでしょうが)大事な内容だと思います。
ただ、「学長自らが広告塔となるPR法」というのは、どちらかというと飛び道具的な知識で、そんなに重要度は高くないような気もします。

また、教える側は各分野の専門家だとのこと。危機管理や、財務・会計などについては、確かに民間の専門家から教われそうですが、一番重要だと思われる学内のガバナンス設計や、中長期的な視野に立った学部学科編成の仕方などについては、おそらく誰も教えられないのではないでしょうか。
その点では、例えば学長経験者、それもできれば日本だけではなく海外の大学リーダーと意見を交換するような機会があったらいいんじゃないかな、なんて個人的には思います。

そもそも、多忙な大学トップが2ヶ月で150時間を確保できるのか、という疑問も浮かびます。

……と、最初は色々と大変なところも出てきそうですが、それでもこういった取り組みは、誰かが旗を振って進めていかなければならないことですから、ぜひ継続的に活動を続けていって欲しいです。

■国立大学マネジメント研究会

日本では、これまで大学の経営トップがそこまで危機感を持つほど、大学間の競争が激しくありませんでしたし、「学長に求められる能力」に関する議論も、これまであまり活発には行われていなかったように思います。
しかしアメリカなどでは、就任直後の大学トップに対する専用の研修カリキュラムや、そういった研修を手がける外部団体があると聞いたことがあります。「強い大学」を実現するための仕組みが、色々なところでシステム化されているのですね。
そこは、日本の私たちも見習って良いところではないかと思うのです。

以上、マイスターでした。

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※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。