「自分で勉強するより全部授業で」 自学自習をしない大学生

マイスターです。

ふと、以下のようなニュースが目にとまりました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「自分で勉強するより全部授業で 大学生の4人に3人」(京都新聞)
http://kyoto-np.jp/article.php?mid=P2007111800044&genre=G1&area=Z10
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大学生の4人に3人は「自分で勉強するより、必要なことはすべて授業で扱ってほしい」と考え、授業内容では「最先端の研究」よりも「学問の基礎」を重視している学生の方が多いことが18日、東大研究グループによる調査で分かった。

授業と直接関係のないことを、独自に学ぶのは少数派であることも判明。高度な専門知識を自ら習得するという学生のイメージからは程遠く、受け身の傾向の強い現在の学生像が浮かび上がった。

(上記記事より)

調査した研究グループにとっては、なんとなく予想通りの結果だったかも知れません。

「日本の子供は自学自習をしない」というのは、これまで小中学生を対象に行われた様々な調査結果が、既に示しておりました。
そんな子供が大学生になった途端、誰に言われなくても自主的に勉強をするかと言えば、やはりそうもいかないのでしょう。そういう意味では、予想通りです。

ただ、そうは言っても、これは看過して良い結果ではありません。
以下、本日は大学関係者にとっては「常識」だと思われる内容が続きますが、大事なので自分の再確認のためにも、まとめておきたいと思います。

【大学設置基準 (昭和三十一年十月二十二日文部省令第二十八号)】

第二十一条  各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。

2  前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。

一  講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。

二  実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。

総務省法令データ提供システムより。強調部分はマイスターによる)

大学の単位は、「45時間の学習時間で1単位」という計算で与えられることになっています。

そしてこの45時間には、大学で受ける講義だけではなく、予習・復習や、与えられた課題を行う時間など、自学自習の分も含まれています。

■講義の場合

  授業 15時間
自学自習 30時間

■実習の場合

  授業 30時間
自学自習 15時間

※授業45時間で1単位、というケースもある。

このように実は講義の場合、授業で学んだ時間に対して2倍の自学自習をこなすことが、単位を与える前提になっています。
実習や演習の場合は、機材を使うなど、自学自習が難しい場合もあるので、講義が占める割合の方が高いです。

マイスターは大学に入った頃、大量の実験レポートを書きながら「実習や実験の方が講義よりずっと大変なのに、なんで1単位しかもらえないんだろう」とよく思っていたのですが、根拠はこれです。
講義なら30時間の授業で2単位もらえますが、実習系の授業では1単位にしかなりません。でもその裏には「講義の場合、自学自習を2倍行わないといけない」というルールが、実はあるわけです。

(ちなみにこれに従うと、2単位を出す講義なら、1時間×15週×2=30時間の授業が必要だということになります。しかし実際には90分の授業を15週、つまり22.5時間程度の授業時間しか確保されていないのが普通です。
ここでは「45分=1授業時間」なんだという、なんだか怪しい換算が使われています)

多くの大学では、入学時に「学生便覧」とか「学部要項」とかいった冊子を配布されると思います。
試しにネットで検索を行ってみたところ、山ほど記述の例が出てきました。

■「授業及び単位制度」(帯広畜産大学)
http://www.obihiro.ac.jp/current/class.html
■「単位制度」(香川大学経済学部)
http://www.ec.kagawa-u.ac.jp/kyoiku/tani.html
■「IV 単位と時間数」(神田外語大学)
http://syllabus.kuis.ac.jp/youran/youran2007/19univ/4dept-04.html

こういったところで単位と学習時間のことは解説されているはず……なのですが、多くの学生がそれを意識することなく4年間を過ごし卒業している、というのが実態なのではないでしょうか。

本来なら、講義系の科目で得られる2単位というのは、授業30時間+自学自習60時間、計90時間の学習に対して与えられるものなのです。
でも実際には、自学自習はほとんどされておらず、授業時間も22.5時間しか行われていません。仮にレポート作成やテスト勉強で15時間くらい使ったとしても、まだまだ足りません。

大学の単位制度を見直した方がいいんじゃないか? と思ってしまうくらい、前提と実態が乖離しています。

ちなみに、文部科学省の大学審議会が1998年に出した「21世紀の大学像と今後の改革方策について ―競争的環境の中で個性が輝く大学― (答申)」でも、同じことが既に指摘されています。

2)教育方法等の改善 ―責任ある授業運営と厳格な成績評価の実施―

i) 授業の設計と教員の教育責任

(ア)単位制度の趣旨

現在の我が国の大学制度は単位制度を基本としており,1単位は,i)教員が教室等で授業を行う時間及びii)学生が事前・事後に教室外において準備学習・復習を行う時間,の合計で標準45時間の学修を要する教育内容をもって構成される。これを基礎とし,授業期間は1学年間におよそ年30週,1学年間で約30単位を修得することが標準とされ,したがって大学の卒業要件は4年間にわたって124単位を修得することを基本として制度設計されている。

(イ)授業の準備学習等の現状

a. 上記のように,単位は教室における授業と事前に行う準備学習・復習を合わせて授与されるものであり,学生の自主的な学習が求められる。このため,教員には教室外の準備学習・復習の指示を与え学生に勉強させる務めがあるが,それが現実には十分果たされていないとの指摘がある。同時に,学生の側についても主体的な学習への取組が十分でないとの指摘もある。

b. (ア)に述べた大学設置基準における単位制度の制度設計からすれば,授業期間中における学生の1週間の学習時間はおよそ45時間となる。しかしながら,平成7年の文部省調査「大学改革の今後の課題についての調査研究報告書」によると,学生の1週間の平均学習時間は,「授業への出席時間」は19.3時間,「その他の勉強時間」は7.2時間となっている。中でも,自然科学系では,「授業への出席時間」が22.3時間,「その他の勉強時間」が7.9時間であるのに対し,社会科学系については,「授業への出席時間」が15.8時間,「その他の勉強時間」が6.0時間となっている。大学設置基準における単位制度が1週間の学習時間をおよそ45時間として設計されていることからすれば,学生の実際の学習時間はこれよりはるかに少なく,その原因は主に「その他の勉強時間」の学習すなわち授業時間以外の準備学習等が十分確保されていないことにあると考えられる。

(「21世紀の大学像と今後の改革方策について ―競争的環境の中で個性が輝く大学― (答申)」(文部科学省)より)

この答申では、学生の主体的な取り組みが不足しているとの指摘と同時に、「教員には教室外の準備学習・復習の指示を与え学生に勉強させる務めがあるが,それが現実には十分果たされていない」とも言っています。

そう言えば、アメリカの大学生は図書館にこもって長く勉強をすると言いますが、アメリカに留学した人から、「授業までに読んでくるべき参考文献が毎回大量に提示され、それを読んでこないと授業でのディスカッションについていけない。」という話を聞いたことがあります。授業時間外でも、図書館で必死に勉強しなければならない理由があるのですね。

自学自習をする学生が少ない背景には、「それでも授業を乗り切れてしまう」という学生側の認識もあるのかもしれません。

ちなみに冒頭の報道を見て、「だから今の学生はいかんのだ」と思う人も多いかと思いますが、団塊の世代くらい、つまり大学が大衆化してきた頃からそんなにこの実態は変わっていないんじゃないかという気もします。

「自分で勉強するより、必要なことはすべて授業で扱ってほしい」とだけ聞くと、なんだかダメな印象を受けますが、逆に今の学生は「授業をさぼる」ということはあまりしません(ケータイをいじるなどの「内職」に励む学生も一定数いますが……)。
むしろ「大学教員になったような人はともかく、今、普通の会社に勤めているような中年層の方よりは、今の学生はマジメだ」という意見も聞きます。

ですから自学自習の時間が少ないというのは、世代的な傾向と言うよりは、日本の大学が持っている学びのシステムの特徴と言えるような気もします。

学生の自学自習時間が少ないことを憂うのなら、その辺りを見直してみることも必要かも知れません。

……と、そんなことを考えた、マイスターでした。

1 個のコメント

  • 大阪の某私大で事務職員をしておりますが、
    http://socyo.high.hokudai.ac.jp/grade/shimosawa.html
    この文書中4.に「文部省は最近,講義時間のさらに 1/4 を自習で振り替え,本来 2 時間の講義を 1.5 時間として良いとした」とありますが、これは何らかの通達などがあるのでしょうか?ご存知の方教えてください。