地方自治体と大学との関係

マイスターです。

大学職員として様々な勉強会に顔を出していたとき、某市の行政職員の方と名刺交換する機会がありました。
名刺には、「○○市立大学設立準備事務局」といった肩書き。

客観的に見て、その市が大学を設立しなければならない理由も、大学を設立したとしてそれが成功する見込みも、あまり感じられませんでした。
その方も、「大学運営のことはまだよく分からないので、今日は勉強しに来ました」とおっしゃっておりました。

これだけメディアが「大学冬の時代」といった報道を行い、実際に定員割れや吸収合併のニュースを報じているにもかかわらず、なぜか

「ウチの市にも大学があったらいいよね」

と考える人は、常にいるようです。

それが政治家だったりすると、「大学を地元につくる」なんてことも考えちゃったりします。で、悪いことに、構想される大学はどこかに既にありそうな内容だったりします。

また、経済効果を期待しつつ、でもリスクはあまり負いたくないという方には、「既に存在する大学を誘致する」という選択肢が人気のようです。

ただ、上述したように大学も生き残るための経営スリム化に必死な時代。「大学が来たら街が潤う」的な淡い期待は捨てた方が懸命です。
どんな大学でも来てくれさえすればいい、というのは、逆に将来の不安要素に繋がりかねません。

既に存在する大学を余所から移転させようとする場合、移転元の自治体と泥沼の争いになる可能性もあります。

(過去の関連記事)
・南九州大学 キャンパス移転計画で揺れる地元(2006年09月12日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50243219.html

そんなわけで、大学と自治体の関係に関して、最近見かけたニュースをふたつご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「葛飾区 大学誘致へ土地取得 購入費450億円に懸念も」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/20071117/CK2007111702064978.html
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JR金町駅近くの工場跡地への大学誘致を進めている葛飾区は十六日、土地を所有する都市再生機構(UR)から、キャンパス整備などの予定地約十ヘクタールを購入する見通しになったことを明らかにした。同日の区議会総務委員会で報告した。この土地には、順天堂大(文京区)が進出の意向を示しているが、規模などの条件が折り合わず、正式合意していない。約四百五十億円に上る巨額な購入費用とあって委員会で懸念する意見が相次いだ。

対象地は、三菱製紙中川工場跡地(十八ヘクタール)のうち約十一ヘクタール。このうち約一ヘクタールは土地区画整理法などに基づく無償譲渡。区はこのうち三-五ヘクタールを大学用地として売却し、残る部分で公園を整備する構想を掲げている。順大は昨年九月、スポーツ健康科学部の移転に意欲を示した。

(略)区によると、今月二日には順大の小川秀興理事長が、青木区長を訪ね、「二ヘクタール規模で進出したい」との意向をあらためて伝えたが、正式合意には至らなかった。このため、区は順大を含め複数校の誘致も視野に四月に進出希望大学を公募する。

区議会総務委員会では「周辺からみてかなり高い単価。さらに交渉すべきだ」「順大が進出を取りやめる可能性もあり、多額を投じた土地取得はリスクが高いのでは」などの意見が相次いだ。 

(上記記事より)

一時は「意欲を示した」順天堂大学も、現時点では正式合意していないとのこと。
つまり「土地を高額で買ってしまってから、そこに来てくれる大学を探す」という流れになっています。なんだか心配ですが、大丈夫でしょうか。

自治体が大学を誘致する場合、「どういう学部に来て欲しいか」という計画が先にあるべきじゃないかとマイスターは思うのですが、その辺りの葛飾区の考えは残念ながらわかりませんでした。

都市マスタープラン(都市計画に関する基本的な方針)なども一応見てみたのですが、大学のダの字もありません。
う〜〜ん、公開されている情報だけだと、「なんとなく大学でも呼んでみるか」「どこでもいいからそこそこ知名度のありそうな大学が来ないかな」みたいな雰囲気が……。

なんとなく個人的には、「大学を誘致することなく、より街を良くする計画」がないかどうか、今一度検討してみてもいいケースのような気がします。

続いて、もう一本。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「『素晴らしさ分かってない…』“塩爺”ら異例の批判」(河北新報社)
http://jyoho.kahoku.co.jp/member/news/2007/11/20071115t41009.htm
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「秋田県議はこの大学の素晴らしさを分かっていない」―。14日開かれた国際教養大(秋田市)のトップ諮問会議で、「塩爺(しおじい)」のニックネームで親しまれている塩川正十郎・元財務相ら出席委員が、同大学に冷ややかな視線を向ける県議会を批判した。寺田典城知事とのあつれきから開学に反対されたり、大学運営予算が認められなかったり、何かと冷遇される現状に“応援団”が不満をぶちまけた。

(上記記事より)

こちらは先ほどと逆の事例です。

国際教養大学は、2004年に開学した、秋田県の県立大学。
「英語だけで授業を行う」「1年間の海外留学が必修」「米国式の授業」といったコンセプトの明確さもあり、人気を集めているようです。
明確な「オンリーワン」を極めようというその姿勢や、良質のリベラルアーツ・カレッジを目指した先見の明にも、個人的には好感が持てます。設立して間もない、それも公立の大学としては、成功をおさめている部類に入るのではないでしょうか。

人によって評価は違ってくるのかも知れませんが、少なくとも新興大学の中で注目されている一校であることは間違いありません。

しかしそんな国際教養大学も、自治体(この場合は県議会)からは冷遇されているとのこと。「寺田典城知事とのあつれきから開学に反対されたり、大学運営予算が認められなかったり」といった経緯があるようで、トップ諮問会議の皆さんはお怒りのご様子。

「開学に反対した大学の実績が良く、しゃくに障っているのだろうが、大学が正しく評価されていない」

「矮小(わいしょう)な政治家にいじめられる大学ではない。一度、県議と議論しよう」

「全国から高く評価されていることに、県議会が無知だとすれば残念」

「県外より、県内の認知度が十分でない。開学に多額の県費を投入したが、国際教養大が存在する経済効果は、初期投資を上回っていることを県民に知らせなくては」
(以上、すべて上記記事より)

……と、不満が爆発しています。
逆に言えば、それだけ皆様、大学の実績に自信があるということなのでしょう。

地元には既に国立の秋田大学、および秋田県立大学があったわけですし、公立大学の開学に知事が当初、慎重な態度を示したのはある意味まっとうです。

でも、そんな不安をよそに、期待を上回る成果を出したのだとすれば、そこは正当に評価されて良いはず。にも関わらず、知事や県議会の理解を得られていないのだとしたら、これは大学の運営上、ゆゆしき事態かも知れません。

もしかしたら、知事や県議会の求めている「公立大学」のミッションと、国際教養大学の皆様のイメージする「公立大学」のミッションとが、違っているのかも知れません。
公立大学というのは、「その自治体のために大学として何ができるのか」を考えなければならない機関です。そのあたりの「貢献の仕方」のイメージに、若干のズレがあったりしないでしょうか。

……と、ふたつの報道をご紹介させていただきました。

地域と大学との関係、果たしてどのようなあり方が理想なのか。
その答えはおそらく、自治体によって異なるのでしょうね。

もし、ご自身の住んでいる街に大学ができたら、もしくは移転してくるのだとしたら、果たしてどういった大学がいいと思いますか。その大学に、何を期待しますか。

以上、マイスターでした。

2 件のコメント

  • 地元秋田の話題ですな。
    県の中にはせっかく大学作って
    (というか旧ミネソタ大学秋田校
    を立て直して)若者を地元にとどまらせ
    ようとしたのに、都会や海外に羽ばたいていってしまうではないか!
    という意見があるようです。
    教職員は全員有期雇用で、最初の契約更新時には半数以下しか再契約できなかっ
    たとの事。
    コンセプトとトップの布陣はすばらしい
    と思うのですが。。。

  • 葛飾区都市計画マスタープランはできてだいぶ経ちますが、区始って以来の住民参加型ワークショップでまとめました。本報告書にこそ載っていませんが、シャドープランの住民まちづくり提案には大学誘致が入っています。特に若い主婦の方々から、金町に大学があったらここも教育レベルが向上するのに、など意見が多数ありました。それを受けてあたくし自身4,5年前から、玩具産業のメッカでもある葛飾にNYのFITのような、タカラトミー等をスポンサーとした「ものづくり・デザイン系大学」を創設してはどうか、と提案してきました。城東地域だけではなく東アジアの留学生もターゲットにした、しかし順天堂大学と聞き、地元と全く脈絡がなく、さらに大した波及効果も見込めずあまりの・・・・・でショックです。先日、東急資本の大学再編を手がけた某氏から、これからは例えば地球環境などグローバルな視野に立脚した新しい大学の創造をしなければと檄を飛ばされました。何百億という前代未聞の資金を投入するのであれば世界に誇れるような大学を創設すべきではと思うのです。