大学非常勤講師の憂鬱

「大学プロデューサーズ・ノート」のマイスターです。

大学で働いていたとき、非常勤講師の方の授業料はいくらくらいなのか、と聞いたことがありました。予想以上に安い金額に、ええっ!? と驚きました。

今の社会において、あまり言及されていない問題だと思いました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「『放っておいたら大変』大学非常勤講師の惨状」(JANJAN)
http://www.janjan.jp/living/0705/0705256108/1.php
————————————————————

大学の非常勤講師でつくる労働組合(関西、首都圏)などが「大学非常勤講師 実態と声 2007」をこのたび出されました。

拝読しましたが、非常勤講師の置かれた惨状に声を失いました。

(略)55%が女性、45%が男性ということ。そして76%が日本国籍、24%が日本以外の国籍であるということです。女性や外国人が多いことを良いことに、使い捨てられているという構造が読み取れます。

平均年齢は45。3歳ですが、平均年収は306万円で、44%の人が250万円未満ということです。45歳といえば、私の職場(広島県)で言えば係長から課長補佐クラス。給料は毎月40万程度、年収にすれば700万円近く行くはずです。多分、この程度の学歴がある人なら、民間大手企業に勤めたらまあ、課長とかその程度にはなっているはずです。

そしてその少ない収入の中から授業・研究関連の支出の平均は27万円で、ほとんど公費は出ていないということです。平均経験年数は11年です。年齢ではなくこちらを基準としても給料は低すぎる。8年公務員を務めた私でも400万円弱ですから、何をか況やです。

平均勤務校数は、3。1校、平均担当コマ数は週9。2コマですから、掛け持ちしていることがわかります。1コマは90分としても週14時間。しかし、最低、同じくらい他に時間をかけているはずです(私も父が大学教授ですから、もう10年前になりますか、家庭崩壊までは身近にその点は見ていました)。

専業非常勤講師の96%が、職場の社会保険に未加入で、75%が国民健康保険、15%が扶養家族として家族の保険に入っている。国民健康保険料は、平均26。4万円 (平均年収の8。6%) と高額で、国民年金保険料 (年16万6320円) とあわせると、年収の13%。非常勤先で社会保険加入を希望する人は79%。

(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

上記の数字は、記事で取り上げられている「大学非常勤講師 実態と声 2007」からの引用のようです。

この本は労働組合が出版した本ですが、「平均年齢45.3歳で平均年収は306万円、44%の人が250万円未満」というのは、マイスターが実際に知っている大学非常勤講師の方々の実態と、そう離れていない数字です。
みなさん、こういった事実、ご存じでしたでしょうか。マイスターは、大学に勤める前は、全く知りませんでした。

大学によって、授業担当者における非常勤講師の比率には差があります。非常勤講師がほとんどいない大学もあれば、授業のかなりを非常勤に頼っているという大学もあります。一般的に、「一般教養」と言われる授業領域に、非常勤の方が多いのではないでしょうか。
いずれにしても少なからぬ大学で、非常勤講師がいないと授業カリキュラムが成立しない状態になっており、その非常勤講師が、上記のような経済状況での生活を余儀なくされているというのは事実だろうと思います。

年収300万円を切っている3~40代となると、給与の額だけ見ればいわゆる「ワーキング・プア」と言われる層に該当します。
非常勤講師の方々は、大学で授業を担当されるくらいですから、修士又は博士の学位を持ち、いくつかの大学での研究業績があるという方々が多いはず。それが、どうしてこうなってしまうのでしょうか。
日本では、博士課程卒業生を倍増させようという政策を実施していますが、この現状では、いずれ問題が爆発するのが目に見えています。大学の非常勤講師がストを敢行したら、全国の大学が一斉に機能停止に陥ると思います。

正直言って、企業に務めた方が、経済的にははるかに恵まれた生活を送れることでしょう。でも、非常勤講師をやりたい、という人は常にいます。それは何故でしょうか。

マイスターがわかる範囲で書きますと……。
まず大学で正式なポストを得るには、研究業績と、教育業績の二つが必要です。
マイスターも大学職員時代、採用された教員の経歴書をいくつも目にしましたが、必ずこの二つは問われています。
このとき、「非常勤講師を務めた」ということは、教育業績のひとつとしてカウントされるのです。これは教員にとって、けっこう重要なことのようです。

そしてもう一点。
これは知り合いの教員に聞いた話ですが、研究活動を行う上でも、どこかの大学で非常勤講師を務めているということは、一定の身分証明になるのだそうです。

つまり大学を出た若者にとっては、生活に困ってでもとりあえず非常勤講師をやっておかないと、その先のキャリアを構築できないという事情があるようなのです。

これは、雇う側にとっては非常に都合のいい話ですが、雇用される側にとっては、あまりいい社会環境とは言えないでしょう。

それに大学にとっても、困った点はあります。
上記のように、非常勤講師はあまり恵まれているとは言えない環境に置かれていますから、正式なポストが得られたら、迷わずそちらに移動します。
この結果、大学では、

「次年度の時間割を作成している途中で、予定されていた非常勤の授業担当者が、(他大学で正式なポストを得て)次々にキャンセルしていく」

という現象が起こります。
3月に入ってからこういうことが起きると、大学としてはたまりません。最悪の場合、担当者不在で新学期を迎えることにもなりかねません。
でも教員のことを考えれば、不安定な非常勤講師をずっと続けるより、一刻も早く正式なポストに就いた方がいいのは明らかです。

こういった状況、どう考えても改善した方がいいのですが、そう簡単にもいきません。

非常勤講師をなくして、すべての授業を専任講師が担当すればいいというものでもありません。
例えば工学系学部などでは、企業の第一線で働きながら非常勤講師として授業を担当してくれる方の存在は、非常に大きなものがあります。芸術系でも経営系でも、いや、すべての分野で多分そうでしょう。

じゃあ、非常勤講師の待遇を上げればいいかというと、それもそう簡単にはいきません。
非常勤講師のギャラの上昇は、即、学費の値上がりにつながります。今、それに耐えられるだけの経営状況を維持している大学がどのくらいあるでしょうか。

今の日本の大学の教育活動は、実はかように不安定な基盤の上に成り立っています。

日本が今後ポスドク問題を解決し、世界的な競争力を持つ知的基盤社会を構築する上で、こういった現状をそのままにしておくことはできないはずです。
例えば、非常勤の立場でも努力次第で公的な研究費を十分に受けられる環境を作るとか、大学以外にも活躍できる場を設けるとかいったことが必要になるでしょう。

留学生を100万人にするとか、博士を増やすとかいったことの前に、まだまだやるべきことがありそうです。

以上、マイスターでした。

3 件のコメント

  • 平均値を見ると上の様な話になりますが、実際はどうなんでしょう?
    国公立大学を定年退職した教授が、私立大学で非常勤を勤めているケースも多いと思います。この場合、ご本人は蓄えがあるので経済的に苦しくないと思いますが、統計上は平均年齢を押し上げるでしょうね。
    もちろん、30代で経済的に苦しみながら非常勤を勤めている人も多いと思います。

  • マイスターさんのブログを毎日見ているミナベです。私は大学職員として勤務しており、若手勉強会で非常勤講師の給与問題を取り扱ったことがあります。また、学部でお世話になっている非常勤講師の方を集めて毎年懇親会を開催しします。定年退職後の非常勤講師は週数回の講義を受け持つ余裕綽々の余生を送っておりますが、30~50代の非常勤講師のみを収入源としている先生方は売り込みに必死です。若手勉強会でも、非常勤講師の給与を上げるべきだという意見は強かったのですが、私学の経営上、簡単にはいきません。学部によっては非常勤講師が100名以上いたりしますし。。。

  • メジャーとマイナー、一軍と二軍で差がある
    のは当然でしょう。嫌なら辞めれば良いだけ
    のこと。茨の道が待ってることは少なくとも
    修士課程の間には分かるはずです。
    みんな自分は優れているとうぬぼれているから、
    ついゲームに参入してしまうのでしょうね。
    若気の至りです。
    私の場合、修士の頃40歳で常勤になっている自
    分が想像できなかったなあ。だから戦略を
    変更したら31で常勤職を得られました。
    今、大学院への進学相談を受けたら、真っ先に
    「君の家は金持ちか?」と尋ねています。