アメリカ、大学の著作権侵害対策に助成金

マイスターです。

大学キャンパスでのP2Pソフト使用に対するアメリカでの報道を一本、ご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「米議会、大学の著作権侵害対策を支援する法案の審議へ」(japan.internet.com)
http://japan.internet.com/ecnews/20070329/12.html
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Ric Keller 米下院議員 (共和党、フロリダ州選出) は先ごろ、P2P を通じた音楽や映画ファイルの違法な流通に関して、米国の大学当局が「真剣に」取り組まなければ「鉄槌が待っている」と警告していた。しかし、同議員が27日に提出した法案は、鉄槌ではなく金銭的な支援を大学に与えようというものだ。

同議員が提出した法案『Curb Illegal Downloading on College Campuses Act of 2007』(H.R. 1689) は、米教育省の助成金利用目的に著作権侵害対策費も認める法案で、学校側が対策ソリューション購入を支援してもらうため、助成金を申請できるようになる。

「大学キャンパスにおける音楽および映画の違法ダウンロードは、帯域を大量に消費し、ウイルスの危険性にさらすことで、大学のコンピュータ ネットワークに害を与えている」と Keller 議員は声明で述べた。

こうした議論の背景には、大学当局の学内における著作権侵害の防止対策について、非難が高まっているという状況がある。米議会や音楽業界は、大学における著作権侵害がひどい状態にあると主張している。大学内での著作権侵害に対し、数年にわたって訴訟が起こされているにもかかわらず、リッチモンド大学の Intellectual Property Institute によると、大学生の半数以上が音楽や映画を違法にダウンロードしているという。

(上記記事より)

日本でも、「Winny」等のP2Pソフトによって違法なファイル共有を行うユーザーがおり、著作権団体にとって大きな悩みになっています。

アメリカでは、特に「大学生のP2P使用」に対する批判が強いのです。

どの国でも一般的に、大学は、高速インターネット環境を充実させることに力を入れています。
コンピューター・ルームや学生寮にある端末、あるいは学生自身のPCを使って、学生がいつでも必要なときにインターネットにアクセスし、情報を収集できるようにと、情報環境を整備します。今や、こういったインフラが整っていることが、大学としての大前提だからです。

電子ジャーナルや論文データベースを整備したり、授業のサポートにwebサイトを用いたりと、様々な大学活動にインターネットが利用されていると聞きます。
インターネットを活用できるかどうかが学生にとって非常に重要だ、という認識があるため、一人一台PCを持たせるようにしたり、大学からの連絡をすべてwebで行うようにしたり、という取り組みも盛んのようです。
こうした動きは、日本でも同じですよね。

ところが、そんな豊かなインターネット環境を与えられた学生が関心を持ってしまいがちなのが、P2Pソフトによる違法なファイル交換、ファイル共有なのですね。
学生がお金を持っていないのは万国共通(?)なのか、アメリカでもこうした行為が問題化し、常に批判を集めています。

リッチモンド大学の Intellectual Property Institute によれば、大学生の半数以上が、音楽や映画のファイルを不法にダウンロードしており、さらに調査会社 NPD の報告によれば、大学生がピアツーピア (P2P) ファイル交換サービスで不法にダウンロードする音楽の数は、大学生以外の人々がダウンロードした数を超えているという。

(「米議会、大学で横行する著作権侵害に厳しい態度」(japan.internet.com)より)

このように、大学生達の行為を見過ごしているわけにはいかない、彼等のP2P使用に対して何らかの特別な対策が必要だ、という認識が広まっているようです。
(議会でこうした議論がなされる裏には、おそらく業界団体によるロビー活動の成果もあるのかな、なんて想像します)

(過去の関連記事)
・アメリカの大学生 ネットとのつきあい方(2007年02月23日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50292308.html

以前の記事でもご紹介しましたが、米国音楽業界は、個々の学生の違法行為を調べては大学に対して著作権侵害の申し立てを行っているようです。
多い大学では既に1,000件以上の申し立てを受けており、学生が停学処分を受けるケースもあるとのこと。
著作権団体も、相当やっきになって調査と対策を行っているようです。

ただ、一件一件調べて回っているだけでは抜本的な解決にはなりません。
それに、大学によって、こうした著作権団体の申し入れに対する協力度には差があると聞きます。

米議会は8日、大学における違法ダウンロード経験者の割合が50%を超えるとの報告に業を煮やし、大学当局がこれ以上看過するなら、議会がなんらかの手段をとると警告した。

Howard Berman 下院議員 (民主党、カリフォルニア州選出) は、多数の大学が米会計検査院 (GAO) 実施の大学における著作権侵害調査に対して協力を拒否したと非難し、この問題を全く無視している大学が多いと述べた。

下院知的財産小委員会の委員長を務める Berman 議員は、「残念ながら、多くの大学が著作権侵害を見て見ぬふりをしてきた」と公聴会で述べ、大学関係者を難詰した。「現行法では、大学に法律を遵守させるに足るインセンティブがない」

下院司法委員長 John Conyers 下院議員 (民主党、ミシガン州選出) は、大学における著作権侵害が今もって「広く蔓延しており」、「ほとんど、あるいは全く対策をとっていない学校が多すぎる。これは容認し得る対応ではない」と付け加えた。

(「米議会、大学で横行する著作権侵害に厳しい態度」(japan.internet.com)より)

と言うわけで、冒頭のような法案が議会に提出されるわけです。
「法律を遵守させるに足るインセンティブ」を大学に与えるという発想が面白いですね。

ネットワークに違法ファイルの流通対策を組み込むためには、各大学に相応の費用負担がかかるはずです。著作権侵害対策に助成金を使えるようになれば、対策は今よりも普及するでしょう。

日本でも、「Winny」等によって違法なファイル交換がされており、おそらくそのうちのいくつかは大学生によるものであるはずですが、今のところアメリカほどの動きはないようです。

■「『Winny』による被害相当額は、音楽ファイル4.4億円、コンピュータソフト等95億円、合計で約100億円の規模と推定」
http://www.jasrac.or.jp/release/06/11_3.html

「Winny」によるファイル転送を遮断するような技術がわりと大学で普及しており、大学キャンパスのネットワークに限って言えば、あまり問題になっていないということもあるでしょう。

ただそれは、アメリカではP2Pソフトの利用について賛否両論の議論がされているのに対し、日本では<P2P=悪い行為>と断定されがちである、ということの表れかもしれません。アメリカでここまで大学生の著作権侵害が批判を集めるに至った背景には、(様々な議論をしつつも)大学がP2Pソフトの利用を容認しているという事実があるのでは……と想像します。

考えていくとなかなか難しい問題です。
でも結局は、大学がこうした行為に対してどのような姿勢を打ち出すか、という話になるのでしょう。

皆様の大学ではいかがでしょうか。

以上、マイスターでした。