「社会からの期待」を伝える、島根大学医学部の地域枠推薦入試

マイスターです。

ユニークな取り組みを見つけました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「首長面接と就業体験導入 島根大医学部推薦入試」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200612210242.html
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地方の医師不足を補うため、地元出身者に限定した推薦入試枠を設ける国立大医学部が増えるなか、島根大医学部(島根県出雲市)のユニークな出願条件が注目を集めている。願書を出す前に地元医療機関での就業体験と市町村長らによる面接を義務づけた。過疎地での医療活動への「熱意」を評価しようという試みだ。

同大学医学部は、06年度入試から地域限定の推薦入試制度を導入した。受験資格を県内の島しょ部や山間部など過疎地の出身者に限定するとともに、地元の病院や社会福祉施設で数日間の就業体験をし、病院長や施設長の適性評価を受けることを義務づけた。

さらに、地元市町村長らによる面接を受け、その推薦を得ることも求めた。「都会に出ず、地域で医師として勤務し続ける意思があるか」「高齢者医療にも取り組めるか」といったことを聞かれることが多いという。
(上記記事より)

島根大学による案内は↓こちらです。

■「島根大学医学部 地域枠推薦入学」(島根大学)
http://www.med.shimane-u.ac.jp/chiikiwaku/

個人的には、これ、いい取り組みだなぁと思います。

この制度が適用されるのは、「地域枠推薦入学(募集人員:10人以内)」での入学を希望する受験生です(「医学部志願者全員に義務づけ」ではありません)。

上記の「地域枠推薦入学」案内ページによると、この制度の趣旨・目的は以下の通りです。

【1.趣旨・目的】

島根県には僻地に該当する地域が多く, 僻地における医師不足が深刻化しています。地域貢献を大学の理念とし, 地域医療に重点を置く医学部は, 医師派遣による僻地医療支援だけでなく, 故郷に根付いて僻地医療を担う医師を養成することを使命としています。

この「地域枠推薦入学」は, 島根県内の僻地出身者で, 医師として活躍するに十分な素質と明確な目的意識を持ち, 島根県の僻地医療に貢献したいという強い使命感を持った意欲ある学生を発掘し, 選抜することを目的としています。それゆえ, この「地域枠推薦入学」では, 従来の推薦入学とは異なり, 地域医療に貢献したいという強い意志を確認するため, 志願者が出願前に僻地医療機関等で適性評価を受けるとともに出身地の市町村長等による面接を受けることとしています。
(「地域枠推薦入学について」(島根大学)より)

皆様もお耳にされていることと思いますが、現在、地方での医師不足は深刻な問題になっています。
島根県も例外ではありません。

(参考)
■「島根県は232人の医師不足」(中国新聞)
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200612220010.html

こういった事態に対処するため、国立大学医学部の間で学生募集時に「地域枠」を設ける動きが進んでいます。(※冒頭のAsahi.com記事末尾に、地域枠を持っている国立大学医学部のリストが掲載されています)

で、島根大学医学部の「地域枠推薦」では、冒頭の記事にあるように

「僻地の医療機関及び社会福祉施設での適性評価」
「市町村長等による面接」

を課しているというわけなのです。

でマイスターは、こういった取り組みは大いに行っていただきたいと思う訳なのです。

マイスターが思うに、この入試制度の最大のねらいは、二つです。

【社会からの期待を、医学生に伝える】

医学部の学生に限らず、若者が成長する上で最も大切なのは「社会からの期待」であると、マイスターは確信しています。
それも、一生涯をかけて「その期待に応えたい!」と思えるような、重く、大きい期待です。

「いい大学に入って欲しい」とか、「大きな企業に入って欲しい」とかいった一時的な期待は、それが達成された時点で光を失います。それにこういったものは主として「親からの期待」であることが多く、「社会からの期待」とは言えません。

例えば医学生であれば、

「○○さんがお医者になってくれたら、うちの子供が病気になっても安心だね」
「○○さんは将来、きっといい医者になる。私たちはそれをとても楽しみにしているよ」

といった期待を周りの人達が日常的に学生に伝えている、というのが、マイスターがいう「社会から期待されている」という状態の一例です。こういった「期待」は、良い医師になるための、最高の栄養になるはずです。
しかし悲しいかな、学生がこういった「社会からの期待」を感じる機会はそう多くありません。(もちろん入学後、各種のインターン活動、研修などを通じて社会の構成員とコミュニケートする機会はあるでしょうが、それだとやや遅いかも知れません。「鉄は熱いうちに打て」です)

島根大学の地域枠推薦を使うと、おそらく「僻地医療機関」で実際に働く人々と自治体のトップから直接、「私たちは君に期待している」という想いを受け取れるはずです。

ここが、この入試制度のすばらしいところだと思います。
もし仮に島根大学の入試に落ちてしまったとしても、こういった想いを地域社会から受け取ることができたなら、それは後々まで残ります。他大学で医師を目指すとか、あるいは何か他の形で地域に貢献するとかいった「次の目標」に活かされるはずです。

入試が、単なる選抜のための手段になっていないという点で、マイスターは感心させられたのです。

【医学生に対する地域からの見方を変える】

医師は、学校だけで育てるものではありません。社会が育てるものです。

「自分達の地域の医療を任せる医師は、自分達で育成する」

という意識を地域社会の皆様に持っていただくことが、遠回りに見えて、実はとても大事な医師養成の要素なのではないかと思うのです。

こういった意識を地域社会の皆様に持っていただくためには、どこかのタイミングで医師養成に関わっていただくのが一番です。
実際に若者が、若いなりの使命感と目的意識を持って行動している姿は、関わった方々の意識を多少なりとも変えるはずです。
それこそ「自治体の長」なんて、学生が卒業して医師になる頃には他の方に変わっている可能性も高いと思いますが、医学部志望生との面接を通じて感じたことは、その後どこで働くにしても活かされるのではないでしょうか。

最近では、「教育」を学校だけの仕事だと考える方々も少なくないようですが、それは違いますよね。保護者はもちろんですが、実は周囲の大人達すべてが次の世代の教育に責任を負っているのです。
そういったメッセージを、マイスターは、この入試の仕組みに感じます。

以上の二点は、この入試が持っている見過ごせないメリットだと思うのですが、いかがでしょうか。

ここまで読んでくださった方はもうお気づきでしょうが、これって医学部だけではなく、他のすべての学問分野でも言えることなんですよね。
例えば教育学部なんてのはその最たるものです。「あなたが先生になってくれたら、私たちはとても安心です」というメッセージを、入試を通じて学生に感じてもらえるような制度ができたら、それはとても意義深いことだと思います。

ちなみにこの島根大学医学部の地域枠推薦、面接と就業体験だけが合格の条件ではありません。↓このような条件も課されています。

・平成19年度大学入学者選抜大学入試センター試験(以下「大学入試センター試験」という。)のうち本学が指定した5教科・7科目を受験する者。

・高等学校における学習成績が優秀で, かつ, 調査書の全体の評定平均値が3.9以上である者。

・高等学校において数学Ⅲ, 数学A及び数学Bを, 物理Ⅱ, 化学Ⅱ及び生物Ⅱのうちから2科目以上並びに英語Ⅱ, リーディング及びライティングを履修(見込みを含む。) した者。
(上記記事より)

医学部であればこういった条件は外せませんよね。ましてや「地域社会の医療を任せることになる学生」であれば、なおさらおかしなことはできません。単なる人数確保にしない、という姿勢は大切です。

というわけで、ぜひこういった制度は、他の大学でも取り入れて欲しいと思う訳なのです。

最後に一言。

現在、地方の医師不足が深刻になっていると書きましたが、医師が地元に定着しない理由は様々です。人手不足により苛烈な労働環境に追い込まれ、医師が離れていく……という「負のスパイラル」に陥っているという話も聞きます。
そういった問題は、個々の学生にどうこう言うのではなく、医療関係者全員で解決していかなければなりません。

せっかく若い医師達が地域からの期待に応えようとしてくれていても、環境がそれを許さないのだとしたら、それは大変な損失です。
医療関係者の方々にはぜひ、抜本的な環境改善策を進めていただきたいと思う次第です。

以上、マイスターでした。