『広告批評』で、「大学をデザインする」という特集

マイスターです。

「履修逃れ校」関連の報道が相変わらず続いていますが、週明けには文科省の調査結果もまとまるでしょうから、今日は別の話題を取り上げたいと思います。

みなさまは、今月に発売された『広告批評』はご覧になりましたか?

【教育関連ニュース】—————————————–

■「広告批評」2006年10月号
http://www.kokokuhihyo.com/
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10月1日に発売された号ですから、かなり時間が経ってしまったのですが、この雑誌の場合、大き目の書店ならバックナンバーとしても置いてあります。

この『広告批評』、文字通り広告に関わる方々のための雑誌です。
で、この10月号が、

「大学をデザインする」

という題名の特集を組んでいるんです。
気になりますでしょ?

上記のページを見ていただくとわかるのですが、実はこれ、明治学院大学ブランディングプロジェクトを紹介した特集です。今をときめくアートディレクターの佐藤可士和氏が、明治学院大学のブランディングを担当しているというのは、大学業界の方ならご存知かと思います。

■「ブランディングプロジェクト」(明治学院大学)
http://www.meijigakuin.ac.jp/branding_project/

■「『広告批評』2006年10月号で本学のブランディングプロジェクトが特集されました」(明治学院大学)
http://www.meijigakuin.ac.jp/hanyou/20061005.html

この特集では、このブランディングプロジェクトが始まってからの経緯や現状などが紹介されているんです。
大学関係の方なら、興味を持って読んでいただけるのではないかと思います。

例えば、ブランディングプロジェクトの初期段階で佐藤氏は、大学の新しいロゴを決定するプレゼンテーションを、学長および学部長会のメンバーを中心とする「ロゴ選定委員会」の前で行っています。

大学の皆様ならおわかりでしょう。長年親しまれてきたロゴを変えるということには、誰もが抵抗感を持つものです。学園に愛着を持っている方ほど、そう簡単に首を縦に振ってくれないのが普通です。
しかも、一般に知られている佐藤氏のデザインって、割とポップな印象のものが多いと思います。一般的に年配の方ほど、大学のロゴにはどちらかというと「格式」「風格」「伝統」を求める向きが多いようですよね。加えて、長い歴史を誇る明治学院は、どちらかというと落ち着いた、上品なイメージの大学という印象を持たれているようです。ですから最初は、選定委員会の皆様もきっと、身構えておられただろうなとマイスターは推察します。

↓明治学院大学のwebサイトには、そんなプレゼン当日の写真がいくつか掲載されています。

■「ロゴマーク・スクールカラー プレゼンテーション」(明治学院大学)
http://www.meijigakuin.ac.jp/branding_project/logo/logo-pre.html

で、今回の『広告批評』には、このときに佐藤氏が話したことが、なんとズバリそのまま掲載されているのです。
(注:ただし全文ではなく、話したことの一部分だけを抜粋したものかもしれません)

「この目的を達成するためには、このデザインしかない!」

・・・といかにして思わせるか。デザイナーやアートディレクターの腕の見せ所は、そこです。

前職事代のマイスターもそうだったのですが、印刷物を始め、webでも建築でも映像でもとにかくデザインと名のつくものに関わる職業の方は、たいていこういったプレゼンに普段から接しています。(大学でも、デザイン関係の学科に入ると、しょっちゅう自分の制作物についてプレゼンすることになります)
しかし多くの大学教職員の方々は、あまり直接、デザイナーやアートディレクターの使う「論理」に触れたことがないのではないでしょうか?

「デザイン=かっこいい形を描くこと」だと思っている方は、今はもうあまりいないかと思いますが、これは大きな誤解です。
デザインのプレゼンというのは、論理的な説得をもって行われます。ただ漠然と「かっこいい形」を作ったというだけでは聞く側を説得できません(だって、個人的に好きか嫌いかなんて、人によってバラバラでしょ?)。そこで、デザインに論理を与えるわけです。

どうしてこの形か、どうしてこのフォントか、どうしてこの色なのか。あらゆるデザイン要素を論理的に説明できて、かつ、とても見た目が美しいければ、そのデザインは採用されるのです。(※逆に、どんなに論理的でも、かっこ悪かったら採用されませんのでご注意を)
デザイナーはみな、そういったことを心がけるわけです。佐藤氏は「アートディレクター」として活動されていますから、よりそういった点に心を配っています。

そんな佐藤氏が、大学の偉い方々を説得するために、どんな論理を使ったか。

デザインされた新しいロゴを見たとき、明治学院大学の大塩学長は、「まるで百年前から、明治学院大学の校章だったようだ」と思われたそうです。論理が通ったいいデザインというのは、そういうものです。

興味がある方は、よろしければ実際の記事をご覧下さい。

ちなみに、最終的に採用されたロゴを含んだ40個のロゴ案も同誌で紹介されています。いずれもいいデザインですが、並べてみるとやっぱり最終決定案が一番かな感じるから、不思議です。

それともう一点、この特集の見所は、佐藤氏が明治学院のためにデザインした制作物の数々です。

何しろ、種類が多いんです!

ポスターや学内の標示、webサイトや大学パンフレット、学内広報誌。そして各種のリーフレットやカレンダー、教職員名刺など。この辺は、たいていの大学でも、デザイナーを統一します。
しかし明治学院の場合は、本当に、キャンパス内にあるあらゆるもののデザインを、佐藤氏が全部、監修しているのです。

変わったところでは、

○履歴書
○履修要項(学部別)
○クリスマスカード
○学食トレイ
○ブランドジャケット
○イベント用スタッフパス
○教職員バス(車体の外側)
○学内に設置されているベンチやゴミ箱
○体育会系サークルのユニフォーム
PC壁紙とスクリーンセーバー
携帯用待ち受け画像

…なんてものまでありました。
この他、学内の空間デザインなども手がけておられます。とんでもない労力がかかってます。
サークル用ユニフォームなんて、ただ共通のロゴを貼り付けるだけとかではなく、サークルごとに丸ごと佐藤可士和デザインなんですから。うらやましいです。
(ちなみにマイスターはこの明治学院スクリーンセーバーを職場の個人PCに導入しようかと一瞬考えましたが、起動した途端、周囲の人達から袋叩きにあうのは確実なので、思いとどまりました)

制作物の一部は、↓webでも紹介されています。
■「佐藤可士和氏デザインによる制作物」(明治学院大学)
http://www.meijigakuin.ac.jp/branding_project/portfolio/index.html

もちろん、↓生協などで販売される各種の大学ノベルティグッズも、佐藤氏のデザインです。
■「佐藤可士和氏デザインによる明学オリジナルグッズ」(明治学院大学)
http://www.meijigakuin.ac.jp/branding_project/volunteer/goods.html

これらの大量の制作物は、「あらゆることをこれだけ徹底してこそ、ブランディングは機能するんだ」という事実を、わかりやすく大学関係者に示してくれます。
ロゴだけ思いつきで変えてみたり、なんとなく建物をしゃれた名前にしてみたりする行為ではないのです。綿密な調査と分析から、明快な論理を導き出し、それをとにかく徹底する。しつこいくらいに徹底する。そこまで徹底して初めて、ブランディングとか、「UI(University Identity)」とか呼べる取り組みになるのですね。
大学関係者の方は、同じことを自校でやる場合の手間を想像して、くらくらすると思います。でも佐藤氏のような売れっ子ですら、これまで2年もかけて取り組んでいるのです。手間を惜しんだり、どこかでめんどくさがったりしていては、ブランディングはできないのです。

その他、同誌の特集には、ブランディングに対する学長のお言葉や、ブランディングプロジェクトのこれまでの経緯なども掲載されています。
明治学院づくしな一冊ですが、よろしければどうぞ。

以上、マイスターでした。