「広報上手になるために ~広報下手な大学を他山の石とする~」

複数の視点を大切にしたいと思うマイスターです。

マイスターが広報プロデューサー時代にたたき込まれたことは、「ユーザー視点でものを考えろ」ということでした。

大企業の広報というのは、どうしても、「組織の都合」や「業界の常識」という発想で物事を捉えてしまいがちです。その結果、ユーザーが本当に興味を持ちそうな情報と、企業の広報とが乖離していってしまうのです。それを、外部の立場から是正するのが、マイスターの役目でした。

「ユーザー視点」というのは一見、簡単そうに思えます。しかし組織の中にいれば、これを突き通すのがいかに難しいことか、よくわかります。
特に大学という組織は、組織の硬直性やユーザー意識の欠如という点では企業以上ですからね。どうしても長く組織内部で働いていると、組織の都合で広報を行ってしまうようになってきます。

そこで、頼りになってくるのが、「メディアの目」です。

メディア関係者は、業界の事情・内情をある程度知っています。ある意味、業界人以上に、業界に精通していると言えるかも知れません。
しかし一方でメディアの方々は、「読者の目」という絶対的な判断基準を持っています。決して、そこから離れることはありません。そのバランスが、メディアを、メディアたらしめている部分だと思います。

マイスターはユーザーの視点に加えて、この「メディアの視点」をよく参考にします。メディアが備えているバランス感覚を信頼しているからです。
(※もちろん、メディアならなんでもかんでも信頼できるというわけではありません。ちゃんと選びます)

しかし大学業界の人間には、メディアよりも自分達の方が業界の事情に詳しいと思っている方が結構おられるようです。
また、さらに悪いことには、メディアのことを「自分達のための外部宣伝機関」のように考えているフシがあります。
こうした認識が、「メディアの軽視」につながり、ひいては社会と大学との距離を拡げる結果になってしまっているのではないかと、心配です。

そんな問題意識があったので、↓こんな勉強会を企画しました。

【教育関連ニュース】—————————————-

■2006.07.07 Greenhorn Network 2006年度第1回勉強会
ゲストによる講演およびディスカッション

ゲスト:ライター 石渡嶺司氏
『広報上手になるために ~広報下手な大学を他山の石とする~』
http://banner.meganebu.com/~greenhorn-net/info.html
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正確に言うと、主催はマイスターではなく、本ブログでも何度かご紹介している若手大学職員勉強会「Greenhorn Network」です。
この会では定期的に、若手の大学職員同士が集まって勉強を行っています。そこで今回、メディアの方に来ていただいて、メディアから見た大学について話をしていただこうと考えた次第です。マイスターは、そのお手伝いをさせていただきました。

ゲスト講師をお願いした石渡嶺司氏は、大学改革の試みや、入試、就職などに関する記事を数多く書かれているライターさんです。
『週刊AERA』の、「面倒見の良い大学」シリーズを担当されていた方だとご説明すれば、大学業界人はすぐにわかることでしょう。現在もAO入試の話題などを始め、精力的に取材と執筆をされています。

「数多くの大学に直接取材をしているメディア関係者」という点では、これ以上の講師はいません。
というわけで、次代を担う若い大学職員達のために、お忙しい中、無理を言って来ていただきました。

大成功でした。

現在の大学の広報担当部署の対応ぶりに、どのような問題があるかということについて、具体的な内容を元に、非常にわかりやすく解説していただきました。

業界人同士がいつも馴れ合いでやっている、研修と称した親睦セミナーとは一線を画した、超・実践的な内容でした。
参加者は全員若い職員で、広報以外の部署に所属している方が大多数でしたが、非常に熱心に聞いていただけていたようです。

あまりに充実した内容で、ブログでその詳細をご紹介するのは不可能です。

そこでここでは一点だけ、特にマイスターが驚いた「ある事実」をご紹介したいと思います。

【驚愕の事実】

『週刊AERA』のように大学の話題を多く取り扱っている雑誌でさえ、大学からのプレスリリースは、ほとんど送られてこない。

日本に大学・短大は700校以上ありますが、そのうち、ちゃんと『AERA』の特定の編集者やライター宛に、その都度適切なプレスリリースを送ってくる学校は、「ほんの数校」だそうです。マイスターはこの事実に心底、驚愕しました。だってプレスリリースを送るというのは、広報担当者の、最も基本的な仕事の一つのはずだからです。

世の中に数多くの大学があって、そのどれもが、生き残りをかけて様々な取り組みを行っているはずです。そうした取り組みは、自分達でメディアに知らせなければ、まず取り上げてもらうことはできません。

これは企業も同じです。そこで企業の広報部は、適切な内容のプレスリリースを、適切なタイミングで、適切な相手に送ることをとても重視しているのです。プレスリリースで取り組みのことを知ったメディア関係者が、取材に来てくれて、何かの形で記事になったら、そのPR効果ははかり知れませんからね。
もちろん、メディアには日々、膨大な数のプレスリリースが届きますから、記事にならない確率の方が高いです。しかしそれでも、こちらから知らせ続けるということが大事なのです。(メディアの側も日々、いい製品や取り組みを探しているわけで、良い内容ならすぐにでも取材に行きたいと考えているのですから)

ところが、日本の多くの大学の広報担当者は、送るべきところにプレスリリースを送っていないのです。

いや、もしかしたら新聞各紙や『蛍雪時代』などのような受験情報誌にはプレスリリースを送っているのかも知れません。しかし、もしそれで満足してしまっているのだとしたら、それは残念ながら、大学の広報意識が著しく欠如していると言わざるを得ません。

例えば、ソニーがAV機器専門誌にしかプレスリリースを送っていないとしたら、いかがでしょう。トヨタがクルマ雑誌の方しか見ていなかったとしたら、どうでしょう。
ソニーやトヨタの製品や、会社としての取り組みは、ここまで一般に知られることはなかったのではないでしょうか。
ハイブリッドカー「プリウス」が発売された時、トヨタの広報担当者はおそらく、環境活動を特集するような雑誌や、一般生活者のための生活情報誌などにもプレスリリースを送ったはずです。新聞社に対しては、経済部だけではなくて、文化部や社会部、生活情報部、その他教育記事担当者などにも、それぞれの関心に沿ったプレスリリースを、内容を書き分けて送ったはずです。
そうした紙面の読者は、「プリウス」についても関心を持つ可能性があるので、メディアも記事にしてくれる確率が高いからです。
自分達の活動を人々に知ってもらおうと考えるのなら、まずこうしてプレスリリースを送るのは必要最低限の行為です。

『週刊AERA』は、2週に1回は必ず大学関連の記事を載せているんじゃないかというくらい、大学問題について熱心な雑誌です。働いている2~30代を中心に、教育についても関心を寄せている方々がメインの読者層でしょう(たぶん)。大学の知られ方に関して大きな影響力を持っているメディアの一つであると、マイスターは思っています。
そんなAERAにすらプレスリリースを送ってないんかい!とマイスターは驚き、日本の大学の行く末が心配になったわけです。

正直言って、自分達の取り組み内容をメディアにお知らせしていないというのは、驚愕の事実を通り越して、シャレにならない事態だと思います。日々、大学改革のために奔走している大学関係者の皆様からすれば、信じたくないことでしょう。でも事実です。

メディアの関係者が熱心に情報収集を行い取材をしてまわってくれているから、良い大学改革の事例が記事になっているのであって、大学側は知られるための十分な努力をしていないんじゃないかと、マイスターは講演を聴きながら思った次第です。

どんなに各大学のみなさまが熱心に改革に取り組んでも、もし広報部がこんな対応をしていたら、満足のいく成果を上げることは難しいのではないでしょうか。

「こっちから知らせなくても、メディアが勝手に取材に来てくれるはずだ。世の中にこの素晴らしい取り組みが知られなかったとしたら、それは社会やメディアが悪いのだ」という、「待ち」体質。

さらに、
「前任者もずっとこのメディアにしか送ってこなかったから」
「受験雑誌に載せてもらえれば十分だから」
「○○大学の○○さんとは知り合いだけど、彼も送ってないって言ってたから」

といった前例踏襲主義&横並び意識。

こうした点が、大学の広報が変わらない原因になっているように思います。

広報のスキル不足もあるでしょうが、それ以上に姿勢や認識の問題が大きいという気がします。それも、個々の担当者…のではなく、「組織として」の姿勢や認識です。
これじゃ、世間から「大学は殿様商売だ」と言われても仕方ないのではないでしょうか。

そんな実態を冒頭の勉強会で知り、う~ん……とうなってしまったマイスターなのです。

プレスリリースひとつをとっても、これです。
実際の勉強会では他にも、もっと深刻な事態が多数、紹介されました。
当日は、「そのために何をすべきか」ということも示されていましたので、ご興味のある方は、ご自身の大学の若手職員を捕まえて、聞き出してください。

さて、そんな有意義な話を聞きながら、マイスターは常々思っていたあることが、やはり間違いではなかったと確信しました。
それは、

過度な「事例偏重主義」をどうにかしなければ、本当の意味で大学はよくならない

……ということです。

長くなってきたので、これについては、明日にまわします。

以上、マイスターでした。