情報教育を考える(5):情報教育を担えるのは、学校の教員だけではない?

アメリカの大学では、「Power Game」(?)などと呼ばれる、戦争シミュレーションの授業があるそうで、一度体験してみたいと思うマイスターです。

戦争シミュレーションと言っても、軍隊の戦術を学ぶものではありません。
マイスターも人から聞いた話なので、詳細はまだよく知らないのですが、
学生がそれぞれ、大統領、議会、軍需産業、軍部、その他政府機関、マスメディア、国民などの枠を担当して、戦争の初めから終わりまでを演じるというものらしいです。

いかに開戦するか、いかに戦争を維持するか、いかに戦争を報道するか、いかに政府を止めるか、いかに終戦させるか。
そういった判断を通じて、各自がリアルに戦争を体験するというわけで、さすがアメリカという感じですよね。
(日本でやったら、大学によっては、反対運動のビラが撒かれそうです)

さらにすごいのは、マイスターが聞いた話だと、

「『CNN』の担当者が戦争に勝ったと報道した時点で、はじめて勝利なのだ」

というルールらしいのです…。
メディアをいかに動かすかを施政者の視点で考えないと、目的を達成できないのですね。なんて実践的なんざましょ。
ある意味、メディアリテラシーの究極だと思います。

この授業には、実際のメディア関係者もゲストとして招かれたりするらしいです。
本当のメディアの関係者が来て、講評を行うんだとか。
マイスターの想像ですが、例えば、

「そんなんじゃ、国民は納得しない。もっとはっきり言い切れ」
「開戦動議のツメがあまい。経済制裁が先だろう」
「野党のつっこみがいまいち。それじゃ大統領は強引に進めてしまうよ」

みたいな講評を、メディアの第一線で活躍するプロ達から受けられるのでしょうかね………?
あぁ、真偽を確かめるためにも、ぜひ一度、そのシミュレーションの一部始終を見てみたい…!
(っていうか、誰か日本の政策系大学院でやってくれないかなぁ)

さて、今日は、昨日の続きです。

・情報教育を考える(4):誰がどこで、情報との接し方を子供に教えればいいのか?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50155343.html

情報リテラシー、メディアリテラシーを面白く教える方法はいっぱいありそうですが、現状では、教員の負担も大きい。
じゃあ、どうしよう?

という話でしたね。

十分なメディアリテラシーを小中学校段階で身につけさせるには、
段階を踏んで、
それなりの時間をかけ、
ちゃんとしたカリキュラムにのっとって、
教育を行わなければなりません。

メディアリテラシーのための教科書は良いものがありそうだし、
授業のアイディアも、考えればいくらでもでてきそう。

でも、既存の教科教育の中で行おうとすると、他の授業内容を削減しなければなりませんよね。
それは正直言って、難しいでしょう。

また、既存教科の教員の方々のメディアリテラシーに対する理解や、
メディアリテラシー教育を行うためのスキルだって、十分ではないでしょう。

こうして「実現は難しいから、見送ろう」となってしまっているのが、現状ではないでしょうか。
これでは、いつまで経っても必要な教育が子供達に届きません。

そこで、
情報リテラシー、メディアリテラシーを子供に身につけさせるために、
有効な手だてを考えてみます。

<外部の人の手を積極的に利用する>

一番大切なのは、外部の方の協力を得ることです。

一人の教員が現代の多様なメディアを熟知するのは、大変なことです。
しかもメディアというのは、日々アップデートされる存在です。
ここはひとつ、実際にメディアを制作している方や、メディアリテラシー教育の専門家などから、知恵と手を借りてはいかがでしょうか。

「外部の人を呼ぶと、かえって手間がかかる」という意見もお有りでしょうが、それはおそらく、コーディネート作業が下手なのだと思います。
もしくは、優秀なコーディネーターの知り合いがいないだけです。

自分でゼロから授業モデルを構築するのも悪くありませんが、大変なら無理をせず、コーディネートも含めて、ゼロから相談できる方を探してみましょう。

■NPO法人 むさしのみたか市民テレビ局
http://www.parkcity.ne.jp/~mmctv/
■横浜市民メディア連絡会
http://www.y-cmc.com/

例えば上記の二団体などは、それぞれ独自の市民メディアを運営しているだけでなく、メディアリテラシーに関するセミナーや授業なども手がけています。
もしラッキーにも、お近くにこうした団体があったなら、相談を持ちかけてみてはいかがでしょうか。
きっと、力になってくれますよ。

■特定非営利活動法 FCT市民のメディア・フォーラム
http://mlpj.org/fct/

上記の団体は、全国でメディア・リテラシー・ファシリテーター研修事業を行っているようです。
優秀なファシリテーターを紹介してもらうのもいいですし、教員として自らファシリテーター研修を受けてみるのもいいでしょう。
メディアや行政、研究機関、市民組織、などからの取材や問い合わせにも積極的に協力している、とのことですので、相談にのってくれると思います。

特に、この団体はテレビなどのマスメディアに関する研究も行っていますので、マイスターが最も重要視する、「マスメディアの読み方、接し方」についても、いいアイディアを提供してくれそうです!

なお、こうした団体に協力を仰ぐ場合、
「ゲストスピーカーとして授業の一回に参加してもらう」、というレベルから、
「授業全体の組み立てを一緒に考えてもらう」というレベル、
「一連の授業を完全に主催してもらう」というレベルまで、
様々なサポートの形が考えられそうですね。

最後のものは、もしかすると正規の学校の授業ではなく、課外セミナーのような形でしか実現できないかも知れません。
また連続したカリキュラムではなく、一回きりのワークショップしか行えないかも知れません。
でも、最初はそれでいいと思います。できるところからやってみるのが大切です。

また、あなたの住む街に雑誌や新聞、放送局、ラジオなどの市民メディアがあれば、メディア制作現場の方々をゲストに呼ぶこともできそうです。
メディアを制作する側が普段、どのような意図を持って制作にあたっているのか。
それを知ることは、メディアリテラシーの大切な要素のひとつです。

メディア関係者を学校の授業に呼ぶ試みとしては、「NIE(教育に新聞を)」という活動が知られていますね。
地元新聞というのはいいかも知れません。

個人的なオススメは、地域の広告媒体を扱う人々です。
中でも、スーパーのチラシを編集している人を授業に呼べたら、最高だと思います。
子供にとっても保護者にとっても、チラシはなじみのあるメディアですが、実はかなり奥が深いんです。

・どんな意図を持ってチラシをデザインし、
・どのような手段を用いて、
・どういうタイミングで、
・どういった地域にそれを配布しているか。
・その結果、どのような効果が得られたか。評判はどうだったか。

これらを丁寧に分析したら、メディアの基本的な性質を一通り学べるんじゃないかと思いますよ。

住んでいる町の地図に配布エリアをプロットしてみたり、自分でも、チラシの編集と配布戦略を考えてみたりしたら、面白いかも。
で、それをスーパーのチラシ編集の方に実際に講評してもらうんです。

そうした作業を体験すれば、かなりメディアに対する意識が変わると思います。

また最近では、企業側も学校への貢献に力を入れ始めています。
うまく連携すれば、レベルの高い知識が得られるかも知れません。

■「社会貢献:教育分野への支援」(日本IBM
http://www-06.ibm.com/jp/company/society/educ/
■「NECネット安全教室」(NEC
http://www.nec.co.jp/community/ja/edu/i_school.html

上記は二社とも情報機器を扱うメーカーですが、社会貢献を推進する企業としても知られています。
デジタルメディアを中心に、NPOのコーディネーターとはまた違った視点の知識を持っておられると思いますので、活用しない手はありません。

<総合学習の時間を利用する>

これは授業時間に関することですが、
他の教科の授業が削れない以上、総合学習の中でメディアリテラシー教育を行うというのが、もっとも現実味のある選択肢でありましょう。

他にも「環境」「国際理解」「福祉・健康」などといった、扱うべきテーマがある中で、情報リテラシーやメディアリテラシーにどれだけの時間を割けるかはわかりません。
教員次第、学校次第という部分、結構あると思います。
しかしだからこそ、その気になれば、できることも結構あるはずです。
これまでに例として挙げてきたことの多くは、おそらく実現可能でしょう。

マイスターは以前にも書いたように、現代を生きる子供達にとって情報リテラシー、メディアリテラシーは「読み、書き、そろばん」に続く第4の基本スキルだと考えています。
この力がないと、子供は、21世紀を生きている大人になれません。

ですので、情報リテラシーを重視し、総合学習の中で取り組みを行ってくれる学校が少しでも多くなるといいなぁと思います。

<休日の学校を利用した、外部団体のイベントにする>

総合学習でも十分な時間が確保できないのなら、あとはアウトソーシングということになります。

上述したようなNPOなどに頼んで、地元でメディアリテラシーの出張授業やワークショップ、研修会を開催してもらうように働きかけてみてはいかがでしょうか。

会場は、学校がベストです。
休日、学校の教室や設備を貸す代わりに、子供達への教育の一部を担ってもらうという発想です。

公民館や市民ホールなどでもいいのですが、それだと参加者にとっては「特別なおでかけイベント」になってしまい、気持ちの上での敷居が高くなります。
本当は、普段使っている学校にでかければ授業が受けられる、という距離感が望ましいです。

(現在でも、教室を一切貸し出さない学校もあるのではないかと思いますが、それは学校が公共の資産であることを考えると、かなりもったいないです)

それさえ不可能ということなら、せめてこうした団体の取り組みを、学校からご家庭にお知らせするというくらいのことは、してもいいと思います。

以上、あれこれと書きましたが、もう長くなってきたのでこの辺にします。

情報リテラシー、メディアリテラシーは、現代では非常に大切な学習です。
間違いなく、「情報教育」の根幹をなす領域だと思います。

パソコンやインターネットの扱い方を教えるのも必要ですが、まずはマスメディアを始めとしたディアのリテラシー(読み書き能力)の基礎から考えてみてはいかがでしょうか。

人的資源も、授業時間も限られていますが、自分ができないなら、他人にやってもらってもいいでしょう。

学校関係者も、保護者の方も、できることから始めてみてください。

マイスターも、自分で今回の一連の記事を書いていて、あらためてメディアリテラシーについて関心を強くいたしました。
メディア・リテラシー・ファシリテーター研修とか、自分が参加できそうなものを探してみようと思います。

5回に渡ってお送りした「情報教育を考える」の記事は、とりあえずここでいったん終了とさせていただきます。

情報教育を考えると言いつつ、実際にはメディアリテラシーの内容がほとんどでしたね…。
しかもまだ、マイスターの得意分野である「情報発信」について、まったく触れられてません…。
でも、同じテーマで回を重ねすぎてしまったので、とりあえず明日は他のテーマにします。

皆様、いい情報がありましたらぜひ、教えてください。
また、機会を見てご紹介させていただきます。

以上、マイスターでした。

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(関連記事)

・情報教育を考える(1):「情報」って何?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50153040.html
・情報教育を考える(2):「情報を疑う力」が、全国民に必要だ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50152837.html
・情報教育を考える(3):『メディア・リテラシー - マスメディアを読み解く』
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50153569.html
・情報教育を考える(4):誰がどこで、情報との接し方を子供に教えればいいのか?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50155343.html