募集停止する大学と、その定員充足率:分かれる「経営判断」

マイスターです。

大学の募集停止を報じる記事が多いです。

(過去の関連記事)
■聖トマス大学が募集停止 最後の入学者の4割は留学生
■三重中京大学、および短期大学部が募集停止
■東海大学開発工学部が募集停止
■皇學館大学社会福祉学部が募集停止・キャンパスも撤退
■ニュースクリップ[-5/24] 「学生募集を停止 松嶺福祉短大」ほか
■株式会社立のLCA大学院大学が募集停止

さらには聖トマス大学に続き、同じ兵庫県にある神戸ファッション造形大学も募集停止を発表。
Yahoo!JAPANのトップニュース欄でも、相次ぐ大学の募集停止が取り上げられたりしています。

【今日の大学関連ニュース】
■「神戸ファッション造形大廃校へ 定員確保が困難」(MSN産経ニュース)

神戸ファッション造形大(兵庫県明石市)が今春入学した学生が卒業する平成24年度以降、文部科学省に廃校を申請することを決めたことが11日、分かった。併設する短大と合わせて22年度からの学生募集を停止。短大は在学生が卒業する23年に廃校となる。昭和42年開校の短大は平成7年以降、大学も17年の開校以来、定員割れの状態が続いていた。現在、大学に165人、短大には39人の学生が在籍している。同大事務局は「進路の多様化で定員確保が難しくなった。残念極まりない」としている。
(上記記事より)

「昭和42年開校の短大は平成7年以降、大学も17年の開校以来、定員割れの状態が続いていた」
とのことですから、4年制化という選択は完全に失敗でした。

学生を集められていない短大を、なぜわざわざ4年制化するかといえば、

「学生が減ったのは、他の4年生大学にとられてしまっているからだろう。うちが短大だから、学生が来ないのだ」

……と、経営陣が判断したから。大学業界では、こういう例は少なくありません。
ですから4年制化で失敗したというよりも、「起死回生を狙って4年制化したが、成功しなかった」という方が正確かもしれません。

「進路の多様化で定員確保が難しくなった」というコメントは、マイスターなりに意味を解釈すると

「以前は選択肢が少なかったから本学に来てくれたが、他の大学や専門学校がたくさんできたから、学生は進学先をもっと幅広く選べるようになった。その結果、本学は選ばれなくなった」

……ということです。
こう書くと、「じゃあ、学生を集められなかった関係者達の力不足のせいじゃないか」と思いますよね。
でもこれを、

「文部科学省がむやみに大学の設置を認めた結果、高等教育のシステムが崩壊し、学生の募集・教育に支障を来す大学も出てきている!」

……と書くと、途端に悪いのは文部科学省で大学は被害者、みたいな印象になるから不思議です。
言っている事実は、両方とも同じなのですが。

MSN産経ニュースでは、以下のような記事が書かれていました。
読まれた方も多いのではないでしょうか。

■「大学淘汰じわり 関西私大3校が募集停止」(MSN産経ニュース)

入学志願者の減少で、平成22年度から学生募集を停止する私立の4年制大学が相次いでいる。三重中京大学(三重県松阪市)、聖トマス大学(兵庫県尼崎市)神戸ファッション造形大学(同県明石市)の3校が募集停止を明らかにし、在校生の卒業後に廃校を検討。「大学全入時代」を迎え、大学間の学生の獲得争いが激しさを増す中、地方小規模校を中心に大学淘汰の動きが広がりそうだ。
(略)今回、募集停止を決めた3校はいずれも学部が一つの単科大で、学生数も800人以下の小規模校。
三重中京大は昭和57年、地元に大学がほしいという県と市の要望で開校。しかし、年々志望者は減少し、今年度の入学者は定員200人に対し155人と8割を切っていた。
また、昭和38年に英知大学として開学したカトリック系の4年制大学の聖トマス大は、少子化などの影響で平成12年度以降、ほぼ毎年のように定員割れ。20年度から文学部を人間文化共生学部に改組したが、21年度は110人と定員250人の半分以下にまで落ち込んでいた。
神戸ファッション造形大も同様で、21年度は定員100人に対し、入学者がわずか35人だった。
(上記記事より)

小規模校ほど学生集めに苦労しているというのは、日本私立学校振興・共済事業団の調査でも明らかにされています。

■「平成20(2008)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向(PDF)」(日本私立学校振興・共済事業団 私学経営情報センター)

同調査では、過去5ヵ年における「規模別」の学校数、志願倍率、入学定員充足率がまとめられていますが、定員800人以上の大学の充足率が平均100%を超えているのに対し、300人未満の大学は9割に届いていません。重い事実です。

ところで今回の3校、いずれも定員を切っているという点は同じですが、21年度の入学定員充足率では、

・三重中京大学 78%
・聖トマス大学 44%
・神戸ファッション造形大学 35%

……と、差があることに気づきます。

上記の日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば、平成20年度の新入生が定員の5割を切っている、つまり補助金がカットされる危機的水準にある大学は29校。
定員の7割に満たない大学までカウントすると、いっきに増えて、97校になります。

三重中京大学は、この97校と比べれば、現状はまだしばらくもつように見えるほう。
しかし同大は、今後は見通しが立たなくなると判断。このままでは在学生の教育にまで影響を及ぼすと見切りをつけ、早めの決断に踏み切ったのだそうです。
(聖トマス大学と神戸ファッション造形大学は、三重中京大学に比べると、判断に時間をかけたことになるでしょうか)

何が言いたいかというと、現状、「見通しが厳しい大学から順に募集停止しているのかというと、そうではない」、ということです。

定員充足率が半数に満たない29校は言わずもがな、7割を切っている大学も97校あります。

三重中京大学以上に見通しが厳しいけど、募集停止の判断にはまだ至っていないという状態の大学が、まだ100校近くあるのです。

これは、だから良い悪いという話ではなく、単に経営判断の違いが出ているだけだと思います。

三重中京大学も、もしかしたらあと数年は、定員割れのまま、粘れたかもしれません。実際、粘っている大学が97校あるのですから。でも、同大は早めの決断をすることにしたのです。
また別に、新入生の定員充足率が7割を切った97校に対して、「早くあきらめた方がいい」と言っているわけではありません。ここから起死回生を果たす大学も、数校はあるでしょう。

ただ、がんばるにしても、早めに撤退するにしても、誰かがタイミングを決めてくれるわけではなく、経営判断がすべてを決めるのだという当然の事実を、改めてかいま見た気がするのです。

マイスターは、こんな現状に対し、ちょっと穿った見方をして、

「募集停止の判断をしやすい大学と、しにくい大学があるんじゃないか?」

……なんてことを考えてしまいます。

例えば三重中京大学は、グループに、比較的まだ余裕のある「中京大学」があります。
学生も教職員も、希望者はこちらの大学に移動する余地があるかもしれません。

一方、聖トマス大学と、神戸ファッション造形大学および短期大学は、事情が異なります。
個別にはどのような今後を計画していらっしゃるか存じ上げませんが、少なくとも大学として、学生や教職員を誘導できる先はありません。

三重中京大学と、残りの2大学とでは、経営判断に至るまでのプロセスに違いが出てきても当然だ、と思います。

また、組織の規模というものもあるでしょう。
週刊朝日の『大学ランキング 2010年版』を見ると、この3大学の組織規模は、以下のようになっています。

【三重中京大学】
学生数 685人
教授数 17人
准教授 2人
講師  4人

【聖トマス大学】
学生数 658人
教授数 27人
准教授 16人
講師  2人

【神戸ファッション造形大学】
学生数 (非公表)
教授数 15人
准教授 4人
講師  3人

教員の人数で言っても比較的、この3校は小規模な組織。これが100人以上の教員を抱える大学となると、話はぐっとややこしくなるでしょう。
それに、一般的に大学では、重要な事項は理事会の他、教授会でも議論することになっていますから、企業以上に組織構成員の今後に関わる決定は大変。学部数が多かったり、多くの教職員を抱えていたりすると、反対の声をまとめるのにも時間がかかるのでは。

この3校以上に大きな組織で、しかも定員充足率がどんどん低下してきている大学は、たくさんあるでしょう。それらの大学が、いつ、どのような経営判断を打ち出していくのかが、とても気になります。
もしかすると、「3校しかまだ募集停止に至っていない」ということが、実は不自然なくらいの状況なのかもしれないのですから。

以上、最近の募集停止報道を見ながら、そんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。