定員割れ打開のためキャンパスを移転 志學館大学

マイスターです。

■千葉大学園芸学部 どうなる移転問題

↑以前、千葉大学園芸学部の移転問題をご紹介させていただきました。

大学はもっと地域と連携すべきだ、とよく言われます。
実際、大学間競争が激しくなる中で、地元の自治体や市民団体と積極的に関わろうとする大学は少なくありません。
歴史の長い大学には、大学創設期から地域に根ざした活動に力を入れていて、既に地域と一体化したような認識をされているところもあるでしょう。
しかしそれ故に、大学が移転してしまうような場合、色々と問題が起こったりします。

さて今度は、大学丸ごと移転を決めたというニュースをご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「志学館大が鹿児島市に移転へ 2011年春」(読売オンライン)

霧島市隼人町の志学館大(辰村吉康学長)が2011年4月に、鹿児島市に移転することになった。少子化の影響を受けて、多くの地方の私立大学で定員割れが続いており、同大も生き残りをかけて、人口が多い鹿児島市へのキャンパス移転を決めた。
(略)同大は法学部、人間関係学部があり、現在、学部生898人、大学院生22人が通っている。両学部の定員は計1400人だが、少子化やキャンパスが霧島市街地から離れた交通の便が悪い場所にあることなどから、学生集めにも苦労しており、1999年度から定員割れが続いている。今年度の入学者は両学部の定員計350人に対して210人だった。
27日に県庁で記者会見した志賀理事長らは、移転の理由について〈1〉定員割れの解消〈2〉系列の短大との連携強化による教員間の共同研究や交流、単位互換制度の利用促進――などを挙げた。今年に入ってから移転の議論を始め、3月に学長名で理事長に移転の要望書を提出。今月23日に開かれた同学園の定例理事会で正式に移転が決定し、24日に学生に説明した。
辰村学長らは学生の約40%が鹿児島市から、約25%が霧島・姶良地区からの通学生であることを挙げ、「県内全域から多くの学生を集めるために、鹿児島市にある学園の資産を活用して活路を開きたい」と説明。志賀理事長は「移転は心痛む選択だったが、学園存続のために決断した。移転先の鹿児島女子短大の校舎の改造・改築を行い、学生や保護者のニーズに応えたい」と理解を求めた。
(上記記事より)

というわけで、鹿児島県にある志學館大学が、現在の霧島市から鹿児島市内へと移転することを決めたそうです。
理由もいくつか挙げられていますが、一番はやはり定員割れを解消するため、より受験生を集めやすい(と思われる)場所に移動した方がいいと学園が判断した、ということなのでしょう。

「活路を開きたい」

という大学側のコメントが、印象的です。

■「志學館大学のキャンパス移転について」(志學館大学)

↑こちらは大学の公式発表。

こうした発表に対し、霧島市ではやはり、残念という声が強いようです。

冒頭の記事によると、大学図書館の市民開放や、大学が主催する生涯習講座への市民参加など、市民とのつながりも深かったようです。
また同大の教員が市の審議会メンバーとして名を連ねるなど、行政との連携んも積極的だった模様。

同市の前田終止市長は27日夕に記者会見し、「移転は大学側から内々に聞いていたが、正式に決まり残念でならない」と語った。
経済的な影響も少なくなく、市の試算によると250人の学生が鹿児島市へ転居した場合、消費など、霧島市への経済効果が年間で計2億9000万円減るという。霧島商工会議所・中道勝義事務局長は「突然のことで驚いている。学生たちは地元の夏祭りにボランティア参加してくれるなど、地域に溶け込んでいた。今後、どれほどの影響が出るか予想がつかない」と話した。
(略)大学近くの主婦(62)は「地元から大学という文化的な施設がなくなるのは寂しい。若い人が減ることで、まちの活力が失われないかも心配」と語った。
「志学館大が鹿児島市に移転へ 2011年春」(読売オンライン)記事より)

↑このように、経済的な影響や、「まちの活気」への影響も懸念されています。

ちなみに、現在までのキャンパスは↓こちら、。

■「キャンパス」(志學館大学)

面積的にそう大きいわけではありませんが、雰囲気がありそうなキャンパス。
移転してしまったら、近隣の方々は確かに寂しいでしょう。
ただ、大学としても経営上、避けて通れない問題と判断したのでしょうから、仕方がありません。

九州では、以前にも宮崎県にある「南九州大学」が、長く所在地だった「高鍋町」から「都城市」に移転したことがあります。
このときには、移転を巡って自治体同士の関係もこじれる問題になりました。

少子化の影響を受けて、多くの地方の私立大学で定員割れが続いており、同大も生き残りをかけて、人口が多い鹿児島市へのキャンパス移転を決めた。

……と、冒頭の記事にはあります。
地方の大学すべてが定員割れを起こしているわけではないでしょうが、相対的に、受験生集めに苦戦している大学が多いのは事実。
今後、このような大学移転は、さらに増加してくるでしょう。

ただ、「移転さえすればすべてが良くなる」ということはありません。
これまで認知されていなかった土地で活動を始めるのですが、むしろ最初はより苦戦するのが普通です。
そして移転には多額のコストもかかるわけですから、経営上、失敗は絶対に許されません。
移転したことがキッカケとなり、大学が廃校に追い込まれる、というケースも、今後少なからず出てくると思います。

学部名称を変えれば受験生が集まる、と考えて実行し、結局あまり変わらなかったという例は少なくないと思いますが、移転も同じ。中身もあわせて生まれ変わらなければ、そう大きく事態は変わらないものです。
移転をキッカケにして事態を好転させられるかどうかは、移転に合わせて、他の部分をどれだけ改善できるかにかかっているのではないか、と個人的には思います。

「大学移転論」が学内で出ている大学の皆様は、移転によるメリットをかなり厳しめに見積もって、それでもなお移転すべきと思えるかどうか、慎重に考えてみてください。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。