大学で「失敗」を体験させる試み

マイスターです。

書物などで読んだだけの内容よりも、自分自身で体験したことの方が深く印象に残ると、一般的には考えられています。これには、あまり異論がある方はいないでしょう。
だからこそ、小学校から大学まで、学校では実習や実験、体験学習などの機会が設けられているわけですね。

自らの目で見て、手を動かして体験したことは、そう簡単には忘れません。
それに、自分で体験すれば、「こういうことを行えば、こういう結果になるんだ」ということを、具体的なイメージと共に、体で理解できます。
結果的に、「生きた知識」になりやすいのかと思います。

さて今日は、体験を通じて学ぶ、という点で、興味深い事例をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「東大とNPOが体験研修」(読売オンライン)

大学での実験や研究の際の事故を防止しようと、東京大とNPO法人「失敗学会」(会長=畑村洋太郎・工学院大教授)が今月15日、東京・文京区の東大本郷キャンパスで初の「失敗体験研修」を開いた。
ハシゴからの転落や電源コンセントの発火といった18種類の「失敗」を、安全が確保された状況の中で実際に体験。「ヒヤリ」とする感覚を通じて、安全意識を高めてもらうのが狙いだ。
研修には、工学系研究科の大学院生や教職員計約30人が参加した。
ハシゴで2メートルの高さから落ちて命綱にぶら下がる体験で冷や汗をかいたり、金属棒やヒモを回転機器に巻き込ませ、引き込まれる力の強さやスピードの速さを実感したりした。漏電や感電など電気関係の事故を実演するコーナーでは、ホコリがたまった状態のコンセントが自然に発火する様子を間近に観察した。
鈴木佐夜香さん(博士課程2年)は「研究室に戻ったら、さっそくコンセントにホコリがたまっていないかどうか調べます」と興奮した表情で話していた。
(略)東大では、今後も同様の研修を定期的に開催していく予定。
失敗学会も、失敗体験研修を他の大学に対しても呼びかけていく考えで、畑村教授は「座学やビデオではなく、実際に自分で体感したり実感したりすることがすごく大切。大学では通常、このような研修は開かれていないが、事故が起きてからでは遅い」と訴えている。
(上記記事より)

そんなわけで、失敗学会による研修です。
学会によるプレスリリースは↓こちら。

■「プレスリリース:4月15日『失敗体験研修』」(失敗学会)

体験のメニューが紹介されています。

研修指導は、住金マネジメント株式会社が、体験研修設備を持参し実施する。
<項目>
① 回転体の危険体験 4事例
 稼働設備清掃巻き込まれ危険
 回転体巻き込まれ強さ
 高速回転巻き込まれ危険
 ドリル巻き込まれ危険
② 高所・重量物運搬などの危険体験 7事例
 垂直タラップ昇降危険
 安全帯衝撃
 梯子・脚立
 荷振れ・重心危険
 重量物運搬腰痛危険
 鉄板落下危険
 溶接ヒューム危険
③ 電気(静電気を含む)系の危険体験 6事例
 低圧電気危険
 モーター漏電危険
 ビニールコード損傷
 蛸足配線・過電流危険
 スイッチ操作不良危険
 静電気による危険
(上記リリースより)

もちろん、すべて安全が確保されたシチュエーションでのことですが、実際に危険な状態を身をもって体験するわけですから、参加者が受けるインパクトはかなりのものでしょう。
一度、こうしてヒヤリとする体験をすれば、

「なるほど、こういう行動が、こんな重大な結果につながるのだな」
「実際には、こんな失敗を絶対に起こさないようにしなければ」

……なんて思いも芽生えると思います。
非常に意義のある研修ではないかと、個人的には思います。

本来なら、すべての工学系大学で実施したい内容でしょうが、やはり準備も大変ですし、研修を行うノウハウも必要。
そこで失敗学会が、こうして失敗を体験する機会をつくっているというわけです。

今回の取り組みは東大工学部と合同でのものだったようですが、ぜひ、全国様々な大学の学生が受けられるようにしてほしいと思います。

ついでに、この失敗学会に関連して、「失敗知識データベース」なんてシステムもご紹介しておきます。

■「失敗知識データベース」(科学技術振興機構)

主として科学技術に関する「失敗」を収集し、「どうしてその失敗は起こったのか? 背景にはどのような問題があったのか?」といった分析を加え、データベース化して公開しているサイトです。
畑村洋太郎・失敗学会会長が中心になってまとめられています。

「機械」「化学」「建設」「電気・電子・情報」などのカテゴリーで事例を検索できますし、工学系の教育で使うには、非常によくできたデータベースだと思います。

↓大学で起こった事故も掲載されています。

■「失敗事例:大学におけるモノシランガスへの亜酸化窒素ガスの逆流混合による爆発」(失敗知識データベース)

しばしば大学の実験室で起こった事故が報道されることがありますが、上記の事例の情報などは、大学の教職員にとっても大いに役立つのではないでしょうか。

というわけで、今日は、工学系の教育に関連して、興味深い取り組みをご紹介しました。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。