大学の卒業証明書類を偽造・販売するブローカー

マイスターです。

大学を卒業すると、「学位記」というものがもらえます。
大学の卒業証書であると同時に、学位を取得したことの証明書でもあります。
「右の認定により本学を卒業したので学士(○○学)の学位を授与する」
などと書いてあって、ちょっと感動します。

ただ、学位記は一枚しかない立派な賞状のようなものですので、これを証明書として使うことはあまりありません。
実際に使うのは、大学の教務課で出力してもらえる卒業証明書や成績証明書といった書類。大学での学びを証明するものとして、就職活動などで提出を求められたりします。

が、そこに目を付けたブローカーのグループが登場し、問題となっているようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「中国人留学生に偽卒業証86人分作成」(読売オンライン)

大学や専門学校の卒業証明書を偽造して中国人留学生に販売していたとして、県警外事課と川越署は28日、中国籍の東京都新宿区荒木町、専門学校生于光被告(27)(起訴済み)を有印私文書偽造容疑で再逮捕した。于被告は、大学を卒業できない留学生が在留資格の変更申請や就職活動で偽造の卒業証明書を欲しがっていることに着目し、約2年半前から少なくとも86人に偽造証明書を売っていたとみられる。
調べによると、于被告は1月下旬、兵庫県西宮市の中国人留学生(33)(有印私文書偽造容疑で逮捕)から依頼を受け、京都府内の私立大学の卒業証明書などをパソコンで偽造した疑い。
于被告は日本に住む中国人向けの新聞に「海外人材卒業指導」などとうたって広告を出し、卒業証明書と学位記、成績単位修得証明書の「3点セット」を15万円で販売していた。
関東や中部、関西地方の28校の名前が無断で使用されており、中には筑波大や慶応大、神奈川大など有名校も含まれていた。
パソコンが得意だった于被告は2005年10月、知人の中国人から頼まれたのを機に偽造を始めた。押収された偽造卒業証明書の中には、本物に似たものもあるが、書式が全く異なるものもあった。
(上記記事より)

そんなわけで、大学の証明書を偽造・販売するグループが逮捕されました。

元の記事には実際に偽造された学位記の写真が掲載されているので、ご覧ください。

様々な大学の印が押されている(ように偽造されている)のですが、よく見ると書類のデザインがみんなほとんど同じ。大学名の部分が違うだけです。
でも、「約2年半前から少なくとも86人に偽造証明書を売っていた」とありますから、その間、この手口が発覚することが無かったということでしょう。

証明書の書式は大学によって異なります。別に、国が定めた定型があるわけではありません。
だから、逆によっぽど多くの学生を採用する大企業の人事担当者でもない限り、見慣れない書式が混じっていたとしても、「ま、こんなものか」と思って終わってしまうこともあるかもしれません。

本当は、大学に電話を一本かけて確認をすればいいのでしょうが……(いや、もしかして今は、電話をかけても個人情報だから答えてくれないのかな? どうなんでしょうか?)とにかく、気づかれなかったわけです。

卒業証明書と学位記、成績単位修得証明書の「3点セット」で、15万円。
就業機会を得られる対価としては、高くないのかもしれません。

別の記事には、

平成17年10月ごろから、1都2府8県の86人から依頼を受け、筑波大や聖マリアンナ医大など19大学の卒業証明書などを偽造し、約1300万円を稼いだとみられる。

「中国人ブローカー4人逮捕、卒業証明書偽造で1300万円稼ぐ」(MSN産経ニュース)記事より)

……とありました。
1,300万円という金額にも驚きますが、こういった書類を欲しがっていた人が、2年半で86人もいた、ということの方にも少しびっくりします。

日本で働くということは、とても魅力のあることなのでしょう。
一方で、しかし日本政府は、日本で働く外国人に対し、それなりにハードルの高い「正当な理由」を要求します。
大学の在学証明書や卒業証明書が、その「正当な理由」をクリアするための通行手形のようになっているということなのでしょう。

となると、今回摘発されたブローカーグループだけではなく、他にも同様のビジネスをしている個人なり組織なりは、あるんじゃないでしょうか。

かつて、留学生をたくさん集めているけれど、実際には学生はほとんど学校に来ないで働いている、という酒田短期大学の例が問題になったことがありますが、元にあるのは同じ問題のような気がします。

ちなみに今回、どうしてこのグループの手口が発覚したのでしょうか。
それは、↓こちらの記事に書かれています。

調べでは、于容疑者は今年一月下旬ごろ、兵庫県西宮市甲子園九番町、無職諾敏容疑者(33)の依頼を受け、京都産業大の卒業証書などを偽造した疑い。「生活費や彼女との交際費が欲しかった」と供述しているという。
于容疑者は中国系の新聞に広告を出して客を募り、都内や埼玉、神奈川など一都二府八県の中国人に一セット十五万円で販売していたという。
昨年四月、埼玉県川越市の中国人の男(26)=偽造有印私文書行使などの罪で有罪確定=が、在留資格変更のため東京入国管理局さいたま出張所に玉川大の偽造した成績証明書などを提出した際、職員が「成績が良すぎる」と不審に思い、犯行が発覚した。

「卒業証書を偽造・販売 慶応、筑波、中央… 中国人逮捕、1部15万円 「成績良すぎる」入管不審で発覚」(東京新聞)記事より)

企業などですと、不審に思っても面倒くさがって確認しないケースもありそうですが、さすが入国管理局。

ちゃんと勉強している留学生の方には優秀な方も多いので、ちょっとやそっとの成績では不審に思わないと思うのですが……うーん、偽造が面倒で、オールAとかにしてしまったのでしょうか?
いずれにしても、初歩的な(?)ミスが逮捕に繋がりました。

しかしこういった手口は、ニーズがある限り、減らないように思います。
むしろ、逮捕が続くごとに、巧妙になっていくんじゃないでしょうか。

大学や企業は、こういった手口に気をつけないといけません。
そしてそれと同時に、「どうしてこういう犯罪が起きるのか」「根本的に問題を無くす方法はないのか」といったことも、合わせて考えていく必要があるのかな、と思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。