中央大学と横浜山手女子学園が合併 横浜山手女子中高は中大付属に

マイスターです。

大学入試のミッションは、優秀な学生を、安定的に大学に供給することです。
特に昨今、少子化に伴う大学間の競争激化によって、この「安定的に」の部分の重みが増してきたように思います。

そこで、どうするか。

あまりブランド力を持っていない大学は、とりあえず指定校推薦枠を大量発行してみたりします(良く知らない大学の教職員が突然訪問してきて、「御校を指定校にしましたので、よろしく」とパンフを置いていくアレです。高校からすると結構、頭に来るようです)。

一方、ブランド力がある大学は付属校を拡充し、一定以上のレベルを持った生徒を毎年一定数、確実に入学させられる体制を築くのです。優秀な学生を早い段階で確保しつつ、学園の総合力を強化して、ブランド力をより高めようとするわけです。

というわけで、今日はこんな報道をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「中央大、横浜山手女子学園を付属化/10年4月から」(カナロコ)

創立百年の伝統を誇る学校法人横浜山手女子学園(横浜市中区山手町)が十八日、二〇一〇年四月からの中央大学(東京都八王子市)への付属校化に向けて中大との協議を始めた。少子化などの影響で生徒確保に苦心する同学園側と、大学間競争が増す中で早期の生徒囲い込みを狙う中大側の双方の思惑が一致した形だ。中大の神奈川進出は初めて。
(略)中大と横浜山手女子は十八日、付属校化に向けた協議会を発足させた。両学校法人は一一年四月、中大が横浜山手女子を吸収する形で合併する見込み。中大側は付属校化とともに男女共学化を視野に入れている。
一〇年四月に付属中、高校に入学した生徒から、希望に応じて中大に進学できる予定。付属校化以前に横浜山手女子中学高校に入学した生徒の受け入れ枠については今後の協議の対象という。
(上記記事より)

というわけで学校法人中央大学が、学校法人横浜山手女子学園を吸収する形で合併。
横浜山手女子中学校・高等学校は、中央大学の付属校になる見込みです。

■中央大学
■横浜山手女子学園

↓中央大学webサイトのニュース欄には、既にこの件についての公式発表が掲載されています。


■「学校法人中央大学と学校法人横浜山手女子学園は、両法人の系属・合併と横浜山手女子中学校・高等学校の中央大学附属学校化を目指して取り組むための協議を開始しました。」(中央大学)

今回の合併に関する、それぞれの思惑は、冒頭の記事で以下のように説明されています。

横浜山手女子は〇七年度の在籍生徒が収容定員の五割に満たない約六百人にとどまるなど、厳しい経営環境の中で将来的な在り方を検討していた。「今は大学進学という出口の保証を求める保護者や生徒が多い。中大のブランド力や教育力、財務力は魅力的だ」(石本渥・副理事長)として付属校化に向けた協議を始める。また、現在の大学進学者は卒業生の二、三割程度のため、付属校化に向けて大学進学実績向上を課題に挙げる。
一方、中大は都内に付属高を三校抱えるが、付属中は二〇一〇年四月に東京都小金井市に初めて開設する。中大は「有名私大の中で付属中開校は出遅れている」とし、横浜山手女子の付属校化で巻き返しを図る構え。
神奈川進出の理由については、東京都に次いで中大志願者数が多い上、有名私学が多い横浜・山手地区というブランドを強調する。既存校を付属校化する手法については、コスト負担の軽減を利点に挙げている。

(「中央大、横浜山手女子学園を付属化/10年4月から」(カナロコ)記事より)

というわけで、双方ともに、競争力向上のメリットを強調します。
確かに付属校化が実現すれば、ここに書かれているような点は強化されるでしょう。

ここしばらく、こうしたブランド大学が付属校や系列校を新設するという報道が絶えません。

例えば早稲田大学は、学校法人「早稲田大学」による初の「直営校」として、早大高等学院の付属中を09~10年度にも新設する計画を進めています。
青山学院大学も、相模原のキャンパスに、付属中高を新設する予定。
慶應義塾大も、2008年の創立150周年を機に、横浜に初等中等学校を新設する計画です。

関西では、立命館大学などは、90年代半ば以降、学校法人を統合する形で私立高校を付属化。定員割れが続いていた公立高校を付属校にするという、極めて珍しい試みも行っています。
関西大学も、高校を経営する学校法人と合併しました。

系列化、コース、協定のいずれかの入学枠がある私立高について、関関同立の4私大に取材したところ、京都、大阪、兵庫の3府県で関西大13校、関西学院大6校、同志社大4校、立命館大17校あった(開校時からの系列校、08年度からの分も含む)。複数の大学と提携する高校もあり、実質は36校で、3府県の全日制私立高186校の19%を占めた。
(「関西3府県、私立高の2割に『関関同立』入学枠が存在」(Asahi.com・2007年12月8日)記事より)
(上記記事より)

……とこのように、関西に至っては私立高校のおよそ2割が、「関関同立」と呼ばれる有力私大への入学枠を持っているという報道もありました。
ちなみにこの記事にある「コース」というのは、例えば↓こういった例を指します。

■「立命館進学コース」(平安女学院中学校・高等学校)
■「立命館アジア太平洋大学・立命館大学進学コース開設」(岩田中学校・高等学校)
■「立命館大学との提携について」(育英西中学校・高等学校)

いずれの事例も、大学にとっては、高い水準の入学者を安定的に確保するという目的に沿ったもの。
高校にとっては、大学以上に厳しい競争で生き残るための選択です。

そのうち東京や神奈川でも、多くの私立高校が、どこかの大学への進学枠を持つようになるのかも知れません。

ただこういった取り組みが、必ずしもすべての関係者に喜ばれるわけではないでしょう。
進学コースの新設くらいならまだしも、「付属校化」となると特に、そう簡単ではないはずです。

例えば今回、冒頭でご紹介した横浜山手女子中学校・高等学校。

報道などを見ると、共学化も検討するとあります。
これは、「女子校」であることに価値を見出して入学した在学生達やその保護者にとっては、寝耳に水の話でしょう。「自分の娘が卒業するまでは、女子校のままであってくれ」と考える方がいないとも限りません。
もしそういった方がいらした場合、納得していただくのは、なかなか大変だと思います。

また、同校にはビジネスコースやインターナショナル・コースなど、様々なコースがあるようです。
「女性の経済思想の啓蒙と常識の涵養」という、建学の理念に沿ったものなのでしょう。
こういったカリキュラムや教育方針は、今後、どうなるのでしょうか。

少なくとも横浜山手女子中高は、現在のこのカリキュラムで経営に苦労されているわけですし、中央大学の付属教育機関になるわけですから、カリキュラムや教育システムなどにも手を入れるのかな、とマイスターは想像するのですが、だとしたらどう変えるのでしょうか。

今のところ、報道では、

神奈川進出の理由については、東京都に次いで中大志願者数が多い上、有名私学が多い横浜・山手地区というブランドを強調する。既存校を付属校化する手法については、コスト負担の軽減を利点に挙げている。

……と、中央大学からはマーケティング上の理由、およびコスト削減という面しか語られていません。
中央大学によるニュースリリースにも、報道以上のことは書かれていません。
それゆえ関係者の中には、「どうしてうちとあそこが?」と驚いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

現段階ではまだ協議が始まったばかりとのことですから、どうしてもこういった情報が先行してしまうのかも知れませんが、今後はぜひ、「どのような学校にするのか」という点についても、情報を発信していただければと思います。

冒頭でも申し上げた通り、付属校というのは、安定的に優秀な人材を大学に送るための教育機関です。
ただ、そこにはもうひとつ、「学園の教育方針に基づいて」という注釈がつくのです。
「付属校」というのは本来、そういう位置づけのものです。

早期からの一貫教育により、学園の理念に沿った人材を育成するための機関が、付属校。
大学の4年間だけでは不可能な、総合的、全人的な教育を行うために、付属校を作るわけです。
したがって、大学と教育理念を共有していない付属校などあり得ません。

ですから、付属校化の話をするのであれば本当は、同時に教育理念とか、人材育成方針の話も聞きたかったなぁと、マイスターなどは感じたりするのです。そうでないと本来、付属校のことなんて、語れないのではないでしょうか。

中央大学は確かにブランド価値を持つ大学だと思います。付属校になり、中央大学への進学枠が得られれば、学校の競争力は増すでしょう。
しかしそれだけでは、ずっと良い生徒が集まり続ける保証はありません。それに何しろ、他の有力大学も、中央大と同じかそれ以上に、付属校経営に力を入れているわけですから、やはり教育自体の魅力アップが大事です。

(付属校が増えることで学園全体の魅力が際だち、「あぁ、あそこの学園がやりたい教育っていうのは、こういうことなんだな」とより明快に周囲に伝わるようになる。そんな在り方が、大学にとっても、付属校にとっても理想なのかなとマイスターは思います)

中央大学と横浜山手女子学園の戦略は興味深いし、有効だろうなと思います。
お互いにとって、まさにWin-Winの合併でしょう。

ただ個人的にはもう一歩踏み込んで、「付属校にした」という事実よりも、

「学校法人中央大学が、横浜山手女子中高のカリキュラムや教育システムをどのように変えていくのか」

「この学校でどのような人材を育成し、中央大学に迎え入れていくのか」

……という取り組みの中身の方に、より注目したいなと思います。そこを見ないと、大学付属校の評価はできないと考えるからです。
今後の報道や両学園からの発表を、期待しながら待ちたいと思います。

今回はたまたま中央大学の事例でしたが、今後おそらく日本全国で、既存の高校を大学が付属校化する事例は増えていくと思われます。
そういったすべての場合に共通して、こうした点は、忘れてはいけない大事なポイントになると個人的には思うのですが、いかがでしょうか。

以上、今回の報道から、こんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • 初めて読ませていただきました。 小学一年の娘を持つ、神奈川区在住の母でございます。
    小学受験は私個人が小学から私立であまり良い思いをせず、娘に関してはあえて見送りました。友人が近隣に出来ないということが一番の考えで、近くに私立もなかったということも一因です。 
    それに引き換え中学受験は最大の関心を持って、日々情報を仕入れています。 今回の内容は興味を持って読ませていただきました。 男女共学化に関しては今朝の朝日新聞に別の学校に関しての記事もあり、共学化のメリットデメリットを考えさせられました。 メリットは多感な時期に異性とコミュニケーションを取れること。 (お付き合いという意味でなく。。) デメリットは男女の仕事分担がはっきり分かれてしまうのでは?ということ。(理科の実験は男子任せ、とか) まだ五年あるので子供にとって一番の学校を皆で考えたいと思ってます。 そのためにまたお邪魔させていただくと思います。 よろしくお願いします。