高等教育研究の権威、マーチン・トロウ氏亡くなる 80歳

マイスターです。

・若手職員とベテラン職員(1)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50299262.html

本日は↑こちらの記事の続きを掲載する予定でしたが、ひとつニュースがありましたので、すみませんが先にそちらをご紹介させてください。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「Martin Trow, leading scholar in higher education studies, dies at 80」(UC Berkeley NEWS)
http://www.berkeley.edu/news/media/releases/2007/03/02_trow.shtml

■「Martin Trow, 80; leading expert on U.S. higher education」(Los Angeles Times)
http://www.latimes.com/news/education/la-me-trow8mar08,1,4934875.story
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高等教育の研究者として世界的に有名なマーチン・トロウ氏が亡くなったとのニュースです。彼が長く活動の拠点としたUCバークレーのニュースやロサンゼルスの新聞サイトが報じています。
享年80歳。7ヶ月の闘病生活の後、ご自宅でなくなられたそうです。謹んでご冥福をお祈りいたします。

おそらく氏は、「大学職員が作るプレゼンテーション資料に出てくる人名ナンバーワン」に挙げられるでしょう。
日本の大学関係者だけではありません。彼の研究成果は様々な国の高等教育政策に影響を与えています。

■「Martin Trow」(Center for Studies in Higher Education at UC Berkeley)
http://cshe.berkeley.edu/people/mtrow.htm

上記は、UCバークレー「Center for Studies in Higher Education」による、マーチン・トロウ氏のプロフィールページです。
彼の著作リストが掲載されており、そのうちいくつかについてはPDFで読むこともできます。ご興味のある方はどうぞ。

彼の研究成果の中でも特に良く知られているのが、大学進学率の上昇にともない大学の役割やあり方が変化していくことを示したモデルです。
該当年齢人口に占める大学在籍率が15%未満の状態では、大学は「エリート型」のシステムをとる。15%~50%の段階になると「マス型」のシステムに移行する。50%を超えると大学は「ユニバーサル・アクセス型」という段階を迎える……というアレです。
彼の名前を採って「トロウ・モデル」と呼ばれています。色々なところで引用されますから、おそらく皆様も、何度となく目にしていることでしょう。

↓例えば、こんな感じです。

■「大学から見た『大学改革の概説』」(Benesse教育研究開発センター)
http://benesse.jp/berd/center/open/report/yamamoto/2002/iituka_04_02.html

はい見たことありますね、この表。

え、見たことない!? そ、そりゃマズイですよ!
あぶないあぶない、今のうちにこっそり知識として仕込んでおきましょう)

UCバークレーNEWSの記事によれば、彼は11冊の著書を書いているそうです。
日本語訳されているものもありますので、この機会に読まれておくことをお勧めします。

高学歴社会の大学―エリートからマスへ

高度情報社会の大学―マスからユニバーサルへ

「トロウ・モデル」を知る前と知った後とでは、大学の見方が全然違ってきます。
日本はちょうど現在、高等教育への進学率が50%のあたりですから、おそらく「トロウ・モデル」の引用頻度も増えていることでしょう。

あまりに便利なモデルなので、セミナーのまくらや論文冒頭の「背景」部分の記述に使われたり、

「ワシの授業についていけん奴は退学してもしょうがない!『面倒見の良い大学』なんてくそくらえだ!」

とおっしゃるベテラン教授に対して

「まぁまぁ先生、マーチン・トロウという研究者によりますとね……」

と穏便な説得を試みる際に使われたりと、大活躍です。

ただしあんまり拡大解釈すると、「ユニバーサル・アクセス時代なんだから、大学なんて何でもありさ」ということになってしまいかねませんので、そこは注意しましょう。
トロウ氏も、過度の拡大解釈は望んでいないと思います、たぶん。

と、このように有名なトロウ氏ですが、冒頭でご紹介したUCバークレーの記事を読んでみると、高等教育分野以外でも、社会科学の領域で様々な研究成果を挙げていることが分かります。

さらに、彼の生涯に対する記述を見てみると

The following year, Trow earned his bachelor’s degree in mechanical engineering from the Stevens Institute of Technology in New Jersey. He worked briefly as an engineer before beginning his graduate studies in sociology in 1948 at Columbia University, where he earned his Ph.D. in 1956.
(「Martin Trow, leading scholar in higher education studies, dies at 80」(UC Berkeley NEWS)より)

なんて記述も。
今では高等教育研究の権威として知られる氏ですが、当初は機械工学の学位を取り、実際にエンジニアとして働いていた期間もあるのだそうです。

現代日本の高等教育のあり方に関心を持っている方、ぜひトロウ氏のように、最初の専攻にこだわらないで研究してみてください。
日本の高等教育は変革期にあります。優れた研究に対する社会からのニーズも高く、非常に取り組みがいのある分野であると思います。

優れた研究者というのは、亡くなったときに周囲が「この方の研究が引き継がれていくのだろうか?」と心配するものなんだとマイスターは思います。
トロウ氏も、そんな研究者の一人ではないでしょうか。

アメリカにも日本にも既に成果をあげている優れた研究者がたくさんおられますが、その流れを絶やさぬ為にも、色々な方に、大学に対して関心を抱いて欲しいなと思います。

以上、マイスターでした。

1 個のコメント

  • マーチン・トロウ氏がお亡くなりになられたとは、知りませんでした。情報ありがとうございます。
    ご冥福をお祈り申し上げます。