「横浜市大厳しすぎた?進級要件 2年生半数超 留年の危機」

マイスターです。

大学生の時、TOEFLを一度だけ受験しました。別に留学するつもりがあったわけではなく、ただ自分にどのくらいの英語力があるのかを知りたかったのです。

何しろ、
「募集要件:TOEFL○○点程度の英語力を持つ方」、
「TOEIC○○点以上の英語力はビジネスマンに必須です」、
みたいな表示を、様々なところで見かけますからね。自分の得点が気になってしまいます。

今日は、そんな英語力テストの得点を巡って困っている、という報道をご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「横浜市大厳しすぎた?進級要件 2年生半数超 留年の危機」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20061108/eve_____sya_____005.shtml
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昨春、地方独立行政法人となった横浜市立大学(横浜市金沢区)の看板学部とされる国際総合科学部で、半数を超す二年生がこのままでは三年への進級が難しい状態に陥っていることが八日、分かった。進級の要件として「英語運用能力テスト『TOEFL』五百点以上」が新たに設けられたためで、大学側は「予想以上に厳しい状態」と頭を痛めている。

同学部は昨年、商・国際文化・理学部の三学部を統合して新設された。二年生は約七百四十人いるが、進級要件を満たしているのは三百五十七人と半数足らずだ。進級のためには十二月と来年二月に予定される二回のテストのいずれかで、五百点のハードルをクリアしなければならない。

TOEFLは、米国などの大学に留学する外国人大学生が授業についていける英語力を有しているか評価するためのテスト。横浜市大は、公立大としての存在意義を高める改革の一環として、英語教育の重視を打ち出しており、「五百点は留学して授業についていくために必要な点数」として要件に設定した。

しかし五百点の壁は意外に高く、在学生からは「このままだと留年してしまう。措置に期待したい」(一年女子)、「五百点は厳しい。もう少し下げてもいいのではないか」(二年女子)と、要件の緩和を訴える声が続出している。「自分は理学系だが、進路によっては、会話中心のTOEFLよりも、専門の英語が必要な人もいる。強制的にやらされるのはどうか」(二年男子)と、同大の英語教育そのものに疑問を投げかける声もあった。

同大によると、昨年までは三年次への進級要件はなかった。例年、単位不足で卒業できない学生は一-二割程度だったという。大学側は、新たな要件を設けた今年の留年者も「二けたくらい」と予測していた。
(上記記事より)

というわけで、公立大学である横浜市立大学の話です。マイスターはいちおう横浜市民ですので、この大学には特別に関心があるのです。

記事にあるとおり、「国際総合科学部」は、商・国際文化・理学部の三学部を統合してつくられました。現在、横浜市立大学にはこの国際総合科学部と医学部しかありませんので、かなり大胆に改編したのですね。
国際総合科学部では、元の3学部を継承する形で「国際教養学系」「理学系」「経営科学系」といった3学系7つのコース編成をとっています。ですから全体としてはリベラルアーツ志向の学部だけれど、人によっては自然科学寄りとか、社会科学寄りの学びをしているという状態です。

で、問題になっているのが、↓こちらの規定です。

■「国際総合科学部のカリキュラム構成」(横浜市立大学)
http://www.yokohama-cu.ac.jp/faculty/icas/icas1.html

1年次の履修科目
・英語を作業第二言語に指定し、ツールとして集中的なトレーニングを行います。また、具体的な最低達成水準(TOEFL500点)を設定し、2年次から3年次への進級要件とします。(上記記事より)

「国際」と名がついていても、実際には全然国際じゃないじゃん、という学部が多い中、とても大胆な方針です。
(ちなみにwebサイトには、「国際都市横浜で学ぶに相応しい国際性、創造性、倫理観をもった人材の育成を目指します。」といった記述もあったのですが、この水準でいくと、マイスターは横浜市民として学ぶのに相応しくないかも知れません……orz)

語学系や国際関係学といった学部では、こういった最低達成水準が設定されていることもあるでしょう。しかし今回のように理学系の学生も抱えたリベラルアーツ型の学部では、珍しいような気がします。しかも「卒業までに達成せよ」ではなくて、「2年次から3年次への進級要件」なのですからね。なかなかハードです。
しかし少々ハード過ぎたのか、規定の水準をクリアできない学生が続出しそうな勢いなんだそうです。

TOEFL500点というのは確かにそれなりに大変なハードルではありますが、しかし個人的には、この規定自体には、問題はないと思います。

「誰がなんと言おうと本学では、これだけの英語力を持った学生しか卒業させないんだ! それがウチの教育ミッションだ!」

……と宣言して受験生を集め、教育をしようというのであれば、それはそれぞれの大学の個性です。
学生の皆さんだって、これを理解した上で、入学してきたわけでしょう。

そう考えると、

在学生からは「このままだと留年してしまう。措置に期待したい」(一年女子)、「五百点は厳しい。もう少し下げてもいいのではないか」(二年女子)と、要件の緩和を訴える声が続出している。「自分は理学系だが、進路によっては、会話中心のTOEFLよりも、専門の英語が必要な人もいる。強制的にやらされるのはどうか」(二年男子)と、同大の英語教育そのものに疑問を投げかける声もあった。

といった在学生の皆様のご意見は、少々的外れだということになります。

ただ、学生の半数がクリアできていないとなると、教育ミッションが十分に達成されていないということになるでしょうから、大学にも問題はあるのでしょう。

TOEFL500点を達成するために必要な教育が、十分に提供できていなかったのかもしれません。
大学として努力はしているけれど、ミッション自体がもともと高すぎたのかも知れません。

あるいは、この「TOEFL500点を取らないと3年次に進級できない」という新しい方針を受験生に伝えるのが不十分だったということも考えられます。こんなハードルが設けられたら、従来の横浜市立大学の志願者と、新しい国際総合科学部の志願者とで、かなり受験者層が違ってきてもおかしくありませんよね。もともと英語に自信がない人は、この大学への入学をためらうんじゃないかと思います。
入学者の顔ぶれが従来と比べて変わったかどうか、ということを調べてみると、問題の原因の一つが見えるかも知れません。

この「TOEFL500点」という規定は個性的で、ミッションとして悪くないのですが、もし徹底するのであれば、大学の性格が大きく変わってしまうくらいのインパクトは持っているハードルなのではないかとマイスターは思います。
ですから受験生は、従来の横浜市立大学とは別の大学だ、というくらいの認識を持って臨んだ方が良かったのかも知れません。

マイスターは関係者ではないので、「半数がクリアできない」という事態を生んだ原因がいったいどこにあるのかはわかりません。
上述した点を含め、きっと他にも色々な要因が絡んでいるのでしょう。

ところで話は少々変わりますが、この報道を見てふと、高校の進路指導の先生や予備校のアドバイザー、受験生の保護者の皆様について考えました。

高校生は通常、大学の学びについて十分な情報を持っておりません。ですから、周囲でアドバイスを出す年長の方々の存在は、非常に大きいものがあります。
逆に言うと、こういった周囲の大人が、従来のイメージのままに、例えば現在の横浜市立大学の受験を薦めたりしたら、高校生達も誤解するだろうなということです。

「ご近所の○○ちゃんは、○○大に通っていたけど、あの大学はのんびりしていていいみたいだよ~」

みたいなアドバイスって案外、影響力が大きいんじゃないかとマイスターは思うのですが(口コミの威力は絶大です)、大学の教育方針が大きく変わったときには、むしろ誤解の原因になりそうですね。

保護者の方はまだしも、高校の先生や予備校のアドバイザーなどは、今回の横浜市立大学の「TOEFL500点」のようなカリキュラム改革の情報を受験生達に伝えないと、話になりませんよね。プロですから、その責任があります。
しかし高校の進路指導って、下手をすると「ご近所の評判」以上に、昔からの古い評判に基づいていたりします。
しかも、

「君の成績なら、もうちょっと上をねらえるぞ。難易度的には横浜市大なんていいんじゃないか?」

みたいな成績ベースのアドバイスしか与えない進路指導も横行しているような気がします。本当は、

「最近、横浜市大は英語に気合いを入れているようだ。TOEFLで500点を取らないと進級できないらしい。英語を鍛えたいならオススメだが、このハードルはなかなか大変だ。そこも含めて、志望校を一緒に考えてみよう」

みたいなアドバイスができてこその進路指導だと思うのですが、現実にはなかなか、そうはなっていないのでしょう。
今回の報道のように学校側の教育方針と成果とで大きなズレが生じた場合、進路指導の時点で誤解が生まれてなかったかな……と考えてみるのも重要ではないかと思います。(もちろん、教育上の努力は尽くした上で、ですが)

たまたま冒頭のような報道があったので横浜市大を例えに出しましたが、これは他のどの大学についても言えることだと思います。現在、どこの大学も多かれ少なかれ、何らかのカリキュラムの改革を行っているでしょう。パンフレットやwebサイトでの告知、オープンキャンパスでの案内に加え、こうした情報が「進路指導の担当者にちゃんと渡り、担当者の口から受験生に伝わっているかどうか」ということについても、見直してみると良いかもしれません。

以上、そんなことを考えた、マイスターでした。