休学者からも高額な学費をとっている大学

30年前と比べて、日本人の人生観は5年くらい、後ろにシフトしていると思っているマイスターです。

つまり、↓こういうことです。

○かつてなら、18歳で自分の進路イメージがある程度絞れていた。
→今は、22歳の時点で専門適性がわかっていたら上出来。

○かつてなら、22歳で一生の仕事を見つけていた。
→今は、何社か転職を経験し、27歳くらいである程度勤め先を決められていれば御の字。

○かつてなら、(男性の場合)だいたい24~26歳で結婚し、親から独立していた。
→今は、30歳前後で結婚するのも普通。親離れしていない20代も(いいかどうかは別として)もはや普通。

○かつてなら、25~27くらいで、第一子をもうけていた。
→今は、31~32歳くらいじゃ、まだ子供がいない人も珍しくない。

この「人生が5年後ろにシフトしてますよ説」は、我ながら結構リアリティあるなぁと思っているのですが、いかがでしょう?

この現象を一番わかりやすくイメージできる例えが、ご存じ、『サザエさん』。
サザエさんの設定年齢、いくつだと思いますか?

実は……24歳なんだそうです。

マイスターは、サザエさんはどんなに若くても30前後だと思っていました。だって、今の感覚からしたらサザエさんは、完全に「おばちゃん主婦」です。今の24歳で、あそこまで家庭を背負って「主婦」している女性、あんまりいないと思いませんか?

昔の24歳っていうのは、あのレベルだったんだなぁと、マイスターは『サザエさん』を見ながらいつも思うわけです。今なら、あの境地に立てるのは、30代前後くらいからじゃないかなぁ~、と考えるのですよ。

というわけで現代では、かつての人生モデルを5年ズラしたくらいのイメージが実はちょうど良いんじゃないか!? …と、ひそかに思っているマイスターです。

「人生が5年後ろにシフトしてますよ説」、よろしければお使いください。
サザエさんの例えは、覚えておくと色々な場面で重宝しますよ。

さて本日は「人生設計」というテーマに関連して、↓こんなニュースをご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「休学者からも学費 半額以上9校、私大20校調査」(共同通信 京都新聞掲載)
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006070200063&genre=G1&area=Z10
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学生が休学する場合の費用負担について、共同通信社が私立大20校を抽出して調べたところ、9校が所定の学費(授業料と施設費など)の半額以上を徴収していることが分かった。うち1校は全額負担。国立大は2004年の法人化以前は一律で全額免除としており、現在も同様の扱いが大半。国立と私立で大きな差が生じている。
休学理由は病気や留学に加え、最近は経済的事情も増えているとされる。私大内部にも「やむを得ず休学する学生に高額な学費を支払わせるのはおかしい」との声があり、関西の私大を中心に低額の「在籍料」に切り替えるところも出ている。

「やむを得ず休学する学生に高額な学費を支払わせるのはおかしい」、確かに。

っていうか、受けていない授業の学費を取っている時点で、そもそもおかしいです。
入学しなかった滑り止め受験校の初年度学費は返還しなければならない、という判決をうけて間もない日本の大学業界ですが、裁判が起きていないところではまだ同じことをやっているのですね。

さて、そんな理屈もあるのですが、「休学者から学費を取ろうとする大学の意図は何?」とか、「休学時にも学費を払わないといけないんだとしたら、学生にはどんなデメリットが?」とかいった発想からこの報道を考えていくと、日本の大学システムについてまた違った視点が得られそうです。

*  *  *

入学から学習支援、就職支援まで様々な大学改革が進む中、今ひとつ手が届いていない気がするのが、「休学」の扱い方です。
時代が変わったのに、「休学」に関する考え方は、ほとんど変わっていないように思われるのです。

皆さんの大学では、休学率の経年変化を追ったり、他校の状況と比較したり、休学する目的を把握したりしていますか? 休学が「しやすい」大学か、「しにくい」大学か、自分達はどちらだと考えておられますでしょうか?

そもそも、休学は悪いことで、させない方が望ましいことですか?
それとも、積極的に活用させるべきこと?

休学中でもウン十万円の学費を払わせる大学というのは、明らかに「休学させたくない」と考えている大学です。
そこにはおそらく、「なるべくなら、休学なんてされたくない」という、大学側の姿勢があるんだと思います。

確かに勉学から逃げるための安易な休学は考えものです。

しかし、留学のためとか、長期旅行に行って自分を見つめ直すためとか、海外青年協力隊に参加するためとか、一時的に就業して自分の適性を考えるためとか、前向きな目的で休学制度を利用しようとする学生だって少なくありません。
事情によっては、むしろ休学制度を大いに活用してもらった方が、本人のために良いということもあるわけです。

ただ、大抵の大学では、そういう「意義のある休学」も含めて、どちらかというと基本的には「休学」の申請は歓迎していないようです。

例えば、基礎データの調査結果などを見ていて、「退学、除籍、休学」のようにまとめていることって、よくあります。退学や除籍と、休学って、全然違うことであるようにマイスターなどは思うのですが、いっしょくたにされていること、多いのですね。
大学にとって、休学されることというのは、退学されることと同じくらい、未然に防止しなければならないことであるということなんだと思います。
(なるべく休学させないようにとの配慮か、「休学するには教員との面談が必要」なんて大学もあります)

大学が、学生を休学させたがらない理由は……いくつかあると思います。

当然、「むやみに間を空けると学習の継続性が絶たれる」、「学習へのモチベーションが失われる可能性がある」といった、教育上の配慮はあるでしょう。

しかし、それだけではないでしょう。
一つには、

○大学の標準モデルは、4年間で設定してあるから、なるべくそこから逸脱して欲しくない

という大学側の思惑があるんじゃないかと思います。

日本の大学システムというのは、例えば進路に迷ったときとか、大学のカリキュラムからはみ出たチャレンジをしたいとか考えても、そういった行動がとりにくいように設計されています。

入学してから卒業するまでのプロセスが、「在籍時間」を基準に考えられていますので、他の学生より早く学習を進めたり、逆にゆっくり進めたりということが、基本的に許されていません。例えば「124単位とること」が大学卒業の条件だったとしても、そこには「ただし4年間でとること」という但し書きがあります。早すぎても卒業を認められないし、遅すぎると「留年者」のレッテルを貼られます。

本当は、3年間で卒業単位相当の単位数を集めている大学生って、日本中にごまんといるでしょう。最後の一年、ヒマです。卒論が課されない学部の学生さんなんて、やることありません。そんな方々は、大学に学費を払いながら、就職活動をするわけですが、それってなんだか色んな意味でムダだなぁと思うのは、マイスターだけでしょうか。

(現在は、一部の大学で一年間の「飛び級」が認められています。これは大きな前進です。ただ飛び級学生というのは結局「4年間の標準モデルからはみ出した例外」という扱いですよね。マイスターは、そもそも「4年間=標準」というモデルを極力なくして、早まったとか遅れたとかいう議論を無意味にしませんか? なんて思うのです)

また逆に、自分はゆっくり学びたいからとか、海外に留学するために一年休学して卒業したいとかいった学生さんも少なからずいると思うのですが、彼らは5年卒業ということで、「留年」のレッテルを貼られますよね。マイスターは、これも不思議に思っています。自分のペースにあわせて5年で卒業するって、そんなに悪いことでしょうか。

人によって、必要に応じて休学もでき、自分の適性を見ながら学んでいける仕組みであった方が、(少なくとも、高等教育の段階では)学生さんにはいいんじゃないかとマイスターなどは思うのですが、日本の大学の多くは、みんなと同じ「標準年数」で卒業させることにこだわっています。

事実、大学の教務部が学生を指導する際、「4年で卒業できそうかどうか」ということだけが指導上の争点になっていることに気づきます。

(なお、学費のシステムも、4年きっかりで卒業することを前提にして作られています。現在だと、一単位のために一年延長しても、一年分の授業料がかかったりします。これはおかしな話だと思うのですが、「4年で卒業できなかったがお前が悪い」ということで済まされてしまっています。
よく考えてみたら、自分のペースで学べるように、学費を単位あたりいくらの従量課金制にして、卒業年限の制限を撤廃すればいい話なんですが、あまりにも大学の仕組みとして定着してしまっているので、あんまり議論の俎上に上ることがないのですね)

そんな「4年卒業以外は、想定の範囲外」という姿勢を大学がとっている以上、「休学」もまた、歓迎されざる行動なんだということなのでしょう。

休学中も学費を、半額以上(数十万円!)も取っている大学というのは、つまり、そういう考えなんだと思われます。

でもマイスターなんかは、正直言うと、休学はもっと利用していただいた方がいいと思うのです。
今、20歳そこそこの若者に、

「大学に入学した時点で、将来のことはだいたい決めてあるよね。だから4年間は、寄り道せずに勉学に励んでね」

……と言い切るのは、ちょっと無理があると思うからです。

24歳で家庭に入って子育てして商店街で買い物を値切っているような、サザエさんの時代の話ならともかく、時代は変わったのです。
30年前の20代と、今の20代。働き方も、暮らし方も、生き方も、選べる選択肢の数が全然違うのです。かつての若者は選択肢がないから悩まずに済んだことでも、今の若者は、悩まざるを得ない状況なのです。これだけ選択肢が多様化していて、18歳で人生設計決まっている方が、逆に不思議でしょう。

だから、半年間休学して、進路を考え直してみたいとか、1年休学して専門学校に通いたいとか、2年くらい休学して仕事をしてみたいとか、海外に長期の交換留学に出たいとかいった悩みや迷いを持つのは、健全で当たり前のことなんじゃないかと、マイスターは思うのです。

そのときに、「一時的に休学して考える」という選択肢があるのは、彼らからすればとても心強いことでしょう。

逆に、大学が「休学中したければ、していいよ。でも、休学中でも、数十万円の学費がかかるよ」としか言わなかったら、あんまりなんじゃないかなぁと思うのです。

これ、実質、「休学するな」ということと同じです。学生さんには経済的ゆとりはありませんから、「悩むことを我慢して在籍し続けるか、辞めるか」の二択を迫られているような事態かも知れません。今現在の若者の生き方、学び方に、こういうやり方が適合しているとは、どうも思えません。

迷うことを許さない教育システムって、いかがなものでしょうか。教育的な配慮として、ちょっとどうかなぁとマイスターは思うのです。

繰り返しになりますが、現代では、大学に入ったからといって、必ずしも将来像がはっきり決まっているわけではありません。
もしかすると、ビジョンを持っていない学生さんの方が多いのかも知れません。そして今後は、そういった方々が、より増えてくることが予想されます。

そのとき、「休学しやすい大学」であることは、若者達にとってはメリットの一つになるんじゃないかなぁ、とマイスターは思うのです。
(保護者や高校教員がどう考えるかはわかりませんが、学生本人からは歓迎されると思います)

こういったことが、もっと高等教育システム全体の中で、議論されてもいいんじゃないかな、と思います。

冒頭のニュースを読んで、そんなことを考える、マイスターでした。

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※ちなみにマイスターが働いている大学では、休学中は在籍費として月々1万円程度の費用をいただいています。その代わり、学費は一切いただきません。「休学しやすい」部類に入るんじゃないかと思います。

一つの大学に4年間いるだけで、世界を知られるわけがないのだから、やりたいことができた学生には休学制度を活用して欲しい、個人的にはそう考えています。

3 件のコメント

  • いつも興味深く拝見させていただいております。
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  • はじめまして。
    本当にそうだと思います!
    自分も海外留学や長期インターンをしたいのですが、海外行くお金さえぎりぎりなのに休学費用なんて50万なんて・・
    泣き寝入りするしかないんでしょうか・・

  • マイスターさんの言うとおりです。うちの子供も自分の進路を考えて、休学したいといっていますが休学中の学費が50万円近くすると大学側から言われ退学も考えています。在籍費用として月1万円ぐらいならありがたいですし、そのくらいにするべきです。(ちなみに上の子供の時は無料にしてくれました。)休学しやすくした方が、いろいろ体験でき、学習の必要性にも目覚め良いと思います。文科省もこの問題に取り組んでほしいと思います。