いつも夏休みの宿題は、9月に入ってから始めていたマイスターです。
提出日の早い物から順に手をつけていくのがポイントでした。
よい子はマネをしないように。



【教育関連ニュース】--------------------------------------------

■「大学は、いま:AO入試」(読売オンライン 特集記事)
http://osaka.yomiuri.co.jp/university/rensai407/dn40706a.htm
---------------------------------------------------------------



正確には、ニュースではなくて、特集記事です。
読売新聞のこの『大学は、いま』のシリーズは、教育に直接携わっていない方にもわかりやすいので、オススメです。

今、全国で起こっている大学改革の動きを、個別のインタビューや調査を通じて取り上げていくスタイルも、好きです。






さて、マイスターは夏休みなので、
「普段はあまり報道に出てこないような、大学を取り巻く大きなトピック」
について、記事をご紹介するように心がけているつもりですが、いかがでしょうか。

というわけで、今日は「AO入試」について、考えるネタをご提供したいと思います。




「AO入試」という言葉は、大学や高校の関係者なら、とっくにご存じだと思います。


-AOとは「アドミッション・オフィス(入学審査事務局)」の略。アメリカで広く行われている選抜制度に範を取り、書類審査や面接などで入学許可を与えるシステムだ。推薦入試と異なり、ほとんどの場合、高校長の推薦書は不要で「その大学で何をしたいか」を明確に説明することが最大のポイントとなる。先の統計では、二〇〇三年入試で採用した大学は国立十七、公立四を含む計三百三十七大学に達し、入学者数も初めて二万五千人を超えた。-(上記記事より)


この記事で説明されているように、AOとは、

 Admission
 Officce

の略です。

記事では、入学審査事務局と訳していますね。
アメリカの選抜制度に範を取り、書類審査や面接などで入学許可を与えるシステムだ、とも。






最初に説明をしておきますと、アメリカのAdmission Officeは、日本の入学課のあり方とはまったく違います。


まず、日本の大学で、入学のルールを決めているのは誰でしょうか?
入学試験を実施し、学生を入学させる権限を持っているのは、誰でしょうか?


「入学課」ではありませんね。
実質的には、教員で構成される入試委員会や、それを承認する教授会です。


入学課は、決定されたことを、実施する事務運営チームです。
残念ながら、実質的には、そうです。


「本学の教育方針からすると、最低限の数学力と、標準以上の行動力をもった学生が本学には必要だ。
だから、ウチは筆記試験は数学だけにして、あとは学習計画書の提出と面接試験で学生をとった方がいい」


…なんてことを、入試課が教授会に提案することは、日本ではまずありえません。
こうしたことは、教授陣が考えるべきことだと、されているのですね。




アメリカでは、違います。

アメリカの大学のAdmission Officeは、文字通り、学生募集のすべてを扱う部署です。
その大学のMisson(大学が果たすべき目的)に沿って、必要な学生を集めてくる、これが彼らの任務です。

どんな学生を、どういう戦略で、どのように集めるか。
その計画から実施までを取り仕切るプロフェッショナル・チームです。

なので、

「受験を受けてきた学生を試験で選抜する」

だけでなく、

「全米を飛び回って、有望な学生をスカウトしに行く」

くらいのこともやってのけます。
優秀な学生が集めらなければ、その全責任を追求されるからです。


なお、ここが重要なのですが、学生募集に関して教員達はほとんどタッチしません。
入試問題が必要になった時、それを作るのは教員かも知れませんが、あくまで

「Admission Officeに依頼されたから、彼らの意図にこたえられるような問題を作った」

というスタンスです。


このような「学生募集」と、「教育」の分業には、意味があります。

それぞれの業務について、本当のプロのレベルの仕事を行わせるため。
そして、それぞれの業務に、緊張感と責任をもたせるためです。



たとえば学生を集める人と、その学生を教育する人が、同じだったらどうでしょうか?

言葉は悪いですが、仮に「出来の悪い学生」がいっぱいとしても、
それが入学時の学生の学力によるものなのか、
入学後の教育によるものなのか、
あいまいなままで済まされることもあるでしょう。

事実、日本では、

「受験生の学力低下がひどいせいで、大学の教育レベルが落ちた」

という論調も見られますよね。主に教員からの意見として。
その割に、そんな学生をそのまま卒業させてしまっていたりします。誰も、責任を追及されることなしに。





アメリカは違います。

大学が求める学生を集める責任は、すべてAdmission Officeが負っています。
ですから、入学生の量と質を確保できなければ、その時点で、教員からその責任を追及されるでしょう。

そのかわり、教員はAdmission Officeが集めた学生を預かるわけですから、一度入学させた学生が十分な成果を出せなければ、

「せっかく全国から一流の学生を集めたのに、十分な教育成果があげられていないじゃないか。教員は何をやっているんだ!」

と、Admission Officeから批判されます。



お互いに、お互いの仕事を監視しあう体制です。
もちろん、一方で教員とAdmission Officeは連携していて、

「今、こういう教育が必要になってきているから、今後はこうした意欲や能力のある学生を集めて欲しい」

とか、

「最近の入学希望者には、こうした経験が不足してきているようだ。教育サイドで、こうした点を補ってくれないか」

とか、連携を密にとっています。

まさに、プロのコラボレーション。

日本のように、

教員の中の会議ですべての入試戦略がなんとな〜く決められ、

ひどい学生しか入ってこなくても、「同僚の教員が入試委員長だったから責任を追及しにくい」、

みたいな、なぁなぁにお茶を濁せるようなシステムではありません。








以上、かいつまんでアメリカのAdmission Officeをご説明しました。

日本でも、入学課の名称を「○○大学アドミッション・オフィス」なんて変更する例が見られますが、ただ名前を変えただけなんじゃないかと、マイスターは思います。

実情は、以前と変わらぬ、「入学試験付帯業務実行課」です。
入試に関する広報機能の充実を図る努力も一部の大学では見られますが、いずれにしてもアメリカのAdmission Officeとはまったく別物です。




冒頭の記事を読まれると誤解されるかも知れないので、指摘させていただきますが、日本で行われているのは

「日本版AO入試」

という、日本流のシステムなんだということをまず前提としてご理解いただきたい。







ようやく本題ですが、日本のAO入試については、評価が分かれています。

みなさんの大学で、「AO入試」って、どういう見られ方をされてますか?


「AO入試は、学生は集まるけど、入ってきたヤツラの学力が低いからなぁ…」


なんてしたり顔で話す方、アナタの大学にもいませんか?
マイスターは、新聞記事などでも、こうした論調の指摘を見たことがあります。


また、実際にマイスターが働く大学の、入学後の成績調査結果を見ると、AO入試入学組は、一般入試組、推薦入試組などと比較して、最も低い結果に終わっています。

こうした結果が出ている大学、多いと思います。多いけど、

「AOで入った学生の成績は悪いけど、受験生を集めるためには、仕方がない」

という意識で、AO入試枠を拡大させている、というのが、実情でしょう。




マイスターは思う。


それは、AO入試を勘違いしている。






冒頭の記事では、日本で初めてAO入試を行い、他大学のモデルとされた慶應義塾大学SFCのことが紹介されています。


-日本で初めて導入したのは一九九〇年、慶応大が湘南藤沢キャンパス(SFC)に開設した環境情報、総合政策の二学部。どちらも定員の約15%がこの方式の枠だ。これまでの総計では、成績優秀者に贈られる「塾長賞」の22・2%、「塾長奨励賞」の25・0%をAO入学組が占めるなど、優れた成果を残してきた。-(冒頭記事より)


実はマイスター、この記事とまったく同じことを以前、関係者であるSFC教授の故・孫福弘氏から直接お伺いしたことがあります。

SFCの成績調査をみると、

・最も成績がいいのが、AO入試組

・次が、慶応付属校からの内部推薦進学組

・いちばん成績がふるわないのが、一般学力試験で入った学生達



なのだそうです。
これは継続的な調査の結果、明らかになっていると、おっしゃっていました。

一般入試でSFCに入ろうとすると、日本でトップクラスの、とんでもない難関の試験をくぐり抜けなければなりません。
そんな学力競争を勝ち抜いた強者学生より、AO入試で入学した学生の方が、SFC内での成績はいいのです。


これを見てもわかるように、単純にSFCの成功を真似してAOを導入し、その結果

「一般試験を通ってないから、成績がふるわない」

と騒ぐのは、間違いです。







なぜSFCでは、AO入試組が成績をきちんと出しているのか。
このカラクリは、SFCのことをちょっと調べてみればわかります。


SFCでは、

「論理的に考える」
「論理的に考えを述べる」
「主体的に学び、動く行動力がある」


という学生を求めています。
そして、実際にこうした学生が活躍できるような授業を4年間、行っているのです。

・SFCシラバス
http://vu.sfc.keio.ac.jp/course/

シラバスを見るとわかりますが、数学力や、物理化学、英語の文法力といった高校での学力が直接求められるような授業はほとんどありません。

マイスターが見る限り、SFCの授業で必要とされているのは論理的な思考能力と表現力、自分で必要な学びを行える自主性、行動力であるように思えます。



SFCはwebサイトで、教育ミッションを以下のように説明しています。

新たな問題に直面したとき、自分で何が問題かを見つけるとともに解決するための方法を考え、必要な知識と技術を自ら学ぶ。これがSFCの教育の根本的な考え方です。
http://www.sfc.keio.ac.jp/prospective/aboutsoukan/index.html



だとすると、シラバスに記載された授業計画は、このSFCのミッションに合っています。
また、AO入試で求められている人物像や、行われているAO試験の内容とも、ぴったり一致しています。


・AO入試:総合政策学部・環境情報学部
http://www.admissions.keio.ac.jp/exam/ao_sfc_about.html




もうおわかりでしょうか。

SFCのAO入試は、SFCのカリキュラムと密接に結びついているから、成功しているのです。


SFCと同じAO入試を、
入学後も数学や理科の知識が問われ続ける理工系の学部や、
歴史などの知識がないと辛い文学部などで行っても、学生は伸びないでしょう。



理工系学部なら、数学と理科の学力が必須。これは、当然です。
だって、こうした学力を前提に、カリキュラムが組まれているのですから。
数学や物理化学が必要なカリキュラムの学科で、AO入試組が活躍するというのは、論理的に無理があります。

高校の成績で判断するのか、入試で判断するのか、高校での研究成果などで判断するのかは、自由ですが、必要な学力は、求めて当然です。

いくら論理的にものを考えられて、学ぶ意欲があっても、理工系学部で数学が苦手では、成績がふるわないの当たり前でしょう。

AO入試組に「学ぶ意欲」を期待するのなら、その分、学力を補う補習授業の仕組みなどを整えるべきです。
多くの大学では、そこまで考えて、AO入試を位置づけていません。


だいたい、大学が求める人物を採用するために行うのがAO入試なのに、AO入試組の成績が悪い時点で、おかしいと思わないのでしょうか…。
本来なら、学科の教育目標にぴったり合致した学生しか、AOではとらないはずなのです。
彼らの成績が悪いなら、それは選抜の仕方が間違っているのです。


うむ、なんてわかりやすい理屈なんだ。





大学の教育ミッションやカリキュラムと連携してないと、AO入試は失敗します。

学生確保のため、やみくもに人真似の入試制度を取り入れて受験生を集めても、入学後に成果を出せずに終わるだけではないでしょうか。

AO入試の拡大には大賛成ですが、それは単なる受験生確保の手段ではなくて、
もっと緻密に計画されたものであるべきなんじゃないか、とマイスターは思うのでありました。

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ
にほんブログ村